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パフューム ある人殺しの物語のkaomatsuのレビュー・感想・評価

4.0
この映画を知ったのは、10年ほど前、アレルギー性鼻炎持ちの私が、鼻に効くアロマオイルを求めに、某アロマサロンに行った折、店内に本作のポスターが貼ってあるのを目にしたのがきっかけだった。なんでも、アロマテラピストである店主の方が、ギャガコミュニケーション主催による、映画「パフューム」をコンセプトとした香りのコンテストに参加し、独創的な香りのアロマオイルを生み出して見事グランプリを受賞したとのこと。そんな経緯から、以前からこの作品に興味を持ちつつも、未見のまま数年が過ぎ、ようやく鑑賞に至った次第。ありがちな猟奇的クライム・サスペンスかと思いきや、意表を突く展開に面食らってしまい、いろんな意味で見事に予想を裏切ってくれた作品となった。

18世紀、パリのとある市場で、一人の男の子が産まれた。名前はグルヌイユ。彼の嗅覚はとりわけ鋭く、あらゆる物を嗅ぎ分け、香水の原料さえすべて言い当ててしまうほどだった。ある日、グルヌイユは街で芳しい香りに出合い、その香りの元が、プラム売りの赤毛の女性だと分かると、彼女に近づく。だが、思いがけずその女性を殺してしまったことで、彼女の香りも消えてしまった。やがてグルヌイユは、かつてパリで人気を博した調香師のいる香水店に弟子入りし、赤毛の女性の香りの再現を試みようとする傍ら、次々と新たな香水を生み出し、斜陽だった香水店を盛り返すのに大きく貢献する。しかし、グルヌイユの調香師としてのモチベーションは、彼の好みである赤毛の女性たちの体の香りを採取し、それをいかに香水として調合するか、ただそれだけだった。グルヌイユは、その「実験」のために、ターゲットを見定めては接近してゆき…。

本作の面白さは、単に主人公の生い立ちや犯した罪とその手口、性癖、そしてその償いや罰という、クライム・サスペンスならではの筋立てや事件簿的な内容に留まらず、非現実的かつ大胆すぎるシュールな発想と展開で、主人公・グルヌイユの嗅覚の鋭さをデフォルメさせながら、天才と狂気の紙一重さを、限りなく寓話的に描いている点にあると思う。それは、ラスト二つの唖然とするようなシークエンス─グルヌイユの刑罰を見守る観衆に起こった珍妙な連鎖反応(いやー、凄すぎる。よく撮影できたな、これ…)と、グルヌイユが産み落とされた場所で起こった、キツネにつままれたような出来事─に象徴されている。なんとも摩訶不思議で残酷、そして、究極に艶かしい、禁断のお伽噺だ。
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