せいか

アパートメント:143のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

アパートメント:143(2011年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

5/31、Youtubeで公式配信期間中に視聴。字幕。
驚かせどころでいちいち丁寧にびっくりしてしまった。
TRPGが好きなTwitterフォロワーが紹介していたので気になって観たのだけれど、そういう紹介の仕方はされてなかったけれど、確かにこれはTRPG的なところが強い作品なのではないかと思った。CoCにしろ何にしろ、どういうシナリオになりそうかとか頭の中で並行して考えられるもの。

最初にまとめておくと、本作は、問題解決をしない作品である。主人公(※ここでは調査団のほうとしておく)はただその場所を「見る」だけの人物で、冷静に自分が思う答えを導き出すだけで、写し出されるそこにはただ茫漠とされるがままに放置された気持ち悪さが残る。そして多分そういうことを感じさせるための作品なのかなと思った。

スペイン映画だが原文の言語は英語。原題は「Emergo」。「アパート143」のタイトルは『Wikipedia』を観る限りどこの言語でもほとんど採用されているけど、多分、欧米辺りの公開時のタイトルとして採用されたということなのだろうか。不明。
「Emergo」は多分スペイン語ではなく、ラテン語からきている言葉で、「立ち上る、浮かび上がる、現れ出でる」といった語彙になる。本作を見る限りこの理解で間違いないかとは思う。
「アパート143」は、主人公たちが調査することになるアパートの部屋番号をそのままタイトルにしたもの。「143」に敢えて意味を持たせているのかは不明。(聖書の「詩篇」の143にかけてるのかなともちょっと思うが、特に作中でヒントがあるわけでもないと思うので、ただの深読みのし過ぎだろうと思う。)

主人公にあたるのは、初老程度の年齢と思しき男の「博士」を筆頭とした心霊現象調査団で、この団員にはあとはそれぞれまだ青年程度の年齢の男女が1人ずついる。計3人。
彼らが調査に向かう車中で男性団員がカメラを回すところから話は始まる。そうして彼らは調査依頼を出されたアパートの家を調査することになり、かなり大がかりな装置(カメラ等)を設置し、住み込みでここの家族と共に生活をしながら調査を進めていくことになる。このため、本作はおおよそずっと調査員のハンディカムや監視カメラを通して撮影されており、いわゆる「モキュメンタリー」などに近い作風になっている。
住み込み先の家に住む家族は3人家族で、父、年頃の娘、まだ幼い息子。母は既に死亡している。彼らは前の家で怪奇現象に悩まされるようになったので引っ越してきたが、2週間もするとまたひどい事態に遭うようになったので調査依頼を出すことにしたという。


話が進むほどにある程度家族側の事情が見えてくるようにはなっているのだけど、結局のところはっきりと腑に落ちるようにはしていないものだったと思う。
最初は話をはぐらかされていた母親の正体も、セルフネグレクトとネグレクトを兼ねたビッチで、父親は仕事もろくにできなくてクビになって家庭環境も最悪な中、母親の不倫現場を娘が目撃してしまって、それでいよいよ父親が子供を連れだして家出をしている間に母親は車で事故死したんだ。それで娘は統合失調症を発症している上に性の目覚めもあって自分も雌豚の血が流れていることで心霊現象を誘発することになったんだよみたいには一応話としてはまとめているけれど、さりとてそれも100パーセント信じられるようには作られていない。
「博士」は玄関に入ったときから娘が統合失調症であろうことだとかは分かっていたけど、それを確認する必要があって云々と終盤で語ってはいるものの、要はそこで「決めつけ」が発生して答え合わせをしただけという可能性もあるわけで。この博士はあくまで冷静で科学的な眼差しで心霊現象にも当たってはいたり、こういうのも心療内科の問診みたいなもので、ある程度目星を早い段階で付けてしまうというのは当たり前みたいなものではあるのだけれど。
確かに視聴者側としても、家に入って間もなくからこの家族が問題を抱えていることは知らされるのやら、雰囲気からで、かなり早い段階でどういう話になりそうかは見当がつくのだけれども……。
娘が本作で触れられた通りの中心人物だからああだったのか、娘というものに(あらゆるものが)執着したからああだったのかという決定的な違いはぼかしたまま話が終わるので、気持ち悪さは残る。確かに娘自身にもおかしな挙動はあったし、それが性への嫌悪や恐怖、複雑な年頃というのは確実に起因しているとは思うけれど、さりとて、語られたことが全て鵜呑みにはできない余地があるよなあというか。娘の言葉が父親の言葉に呑み込まれているのも不穏さがある。思春期だからとか、母親がどうしようもない人だったから、統合失調症だからという理由付けで後ろに追いやられているけれど、どう見てもそれらでは説明がつけられないほどの父親に対する嫌悪(または過剰な意識?)のようなものだって片鱗としていくつもポイントが散在していたと思えるように。
異様に息子のほうは無邪気で可愛いままで終盤にかけては存在感がなくなっていたのもそれはそれでこわい。

繰り返すように、結局どうであれ、この家族に何かしらの問題があったのは事実で、しかもそれは見解決のまま薄暗いアパートの中に閉じ込められていて、中では毎晩のように、アラートのように、嵐が吹き荒れるように怪奇現象が立て続けに起き続けて起きていた。その解決は結局、観測者の役割をこなすだけの調査団に委ねられて(明らかに家庭に問題がありもするのに、そのケアをろくに子供たちにしてなさそうだったのも印象的である)、本人たちも言うように、自分たちは無能で何もできないまま、ただ見ることしかしないまま、最後を迎えるのである。アパートの壁は崩落し、部屋はどこも無惨になり、娘はどこかへ引っ張り上げられるように宙に浮き、父親が触れることで助け出してももはや正気を失った笑顔を浮かべるだけのものになっている。つまるところ何も解決していない。そりゃ破滅に向かうだけの物語になる。(娘の最後の笑顔だって全てがもう手遅れになった後の笑顔とも素直に取れるし、母対父の娘の奪い合いの中で父親が勝ったことに対して何かを含めた結果の痴呆的ともいえる笑みだったのかもしれないし。)
中盤にしろ、ラストにしろ、「ただ見るもの」であるカメラが映し出す不気味な女性(=母親と思しきもの)が霊として存在するかどうかということは無視されたまま、問題はただ家庭問題を含めた娘によるものとしてしか処理されない(し、母親は語りの上で悪役とされたままこれを弁護することも許されない存在である)。
中盤あたりで博士が滔々と幽霊屋敷と怪奇現象の違いについて、前者は霊的なものがどこかに固執することによって成り立つもので、後者はむしろ生きている人間が原因として起こるもので云々と語っていて、ここが本作のミソとなる部分ではあるのは間違いないのだけれど、父親自身が原因となっている可能性、そこに娘も原因となっている可能性、場所ではなく人に執着した母親の霊がいる可能性(=霊が場所に憑くわけではない可能性)というのを総合的に捉えられるのに、そういうことを博士はたぶん思いもしていないか無視しているところが不気味というか、これにしたって、自分の結論ありきで結局物事を見ているだけなのではないかと思えるところがある。(もちろん、たまたま前の家と今の家が幽霊屋敷だったという可能性だって頭ごなしに否定できるわけでもないが、博士は頭ごなしに否定している。)
博士は自分で別個に調査を進めて他人の言葉をうのみにしない態度で物事にあたっていることを語ってもいるけれど(例えば、父親の発言だけを参考としないように妻がかかっていた医者にも舞台裏で話を聞いておくなど)、人の話すことの真実性とか実態なんて一面から見ても分からないのはそれはそうだけど、多面的に見たところで分からないものでもあるので(※小説の『藪の中』とか『月下の道』みたいなもので)、それは、カメラの死角にあった絵がいつ逆さまになっていたか分からないように人の記憶にだって言えることで、本作においては少なくともカメラに映るものだけが無感情に真実を映すものとしてあったのだろう。それだけが「現れ出でる(=Emergo)」ものを見ていたように。

本作は、モキュメンタリー風ホラー、パラノーマルアクティビティ的な怪奇現象ホラーの系列には連なると思うけれど、そこにさらに生きた人間と死んだ人間の肉色の念が詰まっているところもある怖さを考えれば感じる程度の怖さとして脚色している作品だったなあと思った。

……と、うだうだと収束のなさを楽しんではいたけれど、もちろん、素直に作品上で描かれるままのことを鵜呑みにして観ることもできないわけではないので、以上、単なる深読みのし過ぎの可能性はある。とはいえ繰り返しになるかもしれないけれど、原題同様、見てるこっちもなんかフワフワしてくるところがあるはっきりしななさなので、好きに捉えていいのかもしれないけれども。

最後に、上記でも触れていた、中盤の博士の重要なセリフの抜き書きをして終わる。
(00:44:44~00:46:49)
Dr.ヘルザー「幽霊じゃない」
アラン「呼び名は何でもいい 妙なものが家に棲んでる 超自然的なものがね 何なんだ」
「”超自然”なんてものは存在しない どんな現象も自然の一部だ 解明されてないだけ 心霊現象の研究は事象の集積に過ぎない 共通の仮説を探すより 個々の事象にかなる仮説を見つけるべきだ」
「僕が理解できないし 理解したいのは なぜ幽霊屋敷になったかだ」
「要点はそこだ 幽霊屋敷じゃない この家のケースは ”反復性偶発性念力”と呼ばれるものだ〔…〕ポルターガイストだよ」
「つまり家に霊がいるのでは?」
「いや そうじゃない 幽霊屋敷なら場所は決まっている 同じ家で 昔から怪現象が起きてる 取り憑いてるのは── 幽霊 怨霊 死霊…… そんなものだ ”幽霊”は死後も── 何らかの事情でその場に留まっている ”怨念”はいわば光の残像のようなもの 古い映画と同じ だがポルターガイストは生きてる者が原因だ 引っ越す前の家でも起きていたろ 幽霊屋敷が2つ続くわけがない 科学者として検証はするがね」
「でも 妻の霊が……」
「それは除外しよう 何度も言うが 原因は生きてる人間だ 事象がすさまじくても”超自然”の仕業じゃない〔…〕中心には強いストレスを抱えた人物がいるはず 自覚のない怒りや不安や罪悪感に苦しんでる それが心霊エネルギーとなって 解き放たれ 猛威を振るう 思春期の少女はホルモンが不安定で しばしばその中心人物になる 幼児や大人も重圧があればそうだ 正直言って この家には 当てはまる要素が多くある」
せいか

せいか