空海花

Playbackの空海花のレビュー・感想・評価

Playback(2012年製作の映画)
4.0
三宅唱監督作品。
噂には聞いていたのだが、これまで観られる機会がなく。。
長編2作目、劇場デビュー作のようだ。
これは、良かった。

40歳を前にして
仕事も私生活もパッとしない俳優の
人生の岐路。
妻は家を出るところ。
彼はアフレコの現場にいるがどこか投げやり。
病院で頭部のレントゲン写真が映る。

モノクロームで綴られるフィルムの映像の世界は、記憶を巡るにふさわしい。
現在と過去を行ったり来たり
交錯し反復されて、心を揺さぶる。

時をまたぐようでいて、
タイムループというには違和感がある。
映像としては
友人の結婚式に出席するため車に乗せられて、居眠りをしていると
大人の姿のまま高校生に戻っていたりする。
トンネルで真下に車が消えていくと
真下の歩道から学生服で自転車で現れたりと。
何かのきっかけでふと思い出される心象風景のよう。
それでいて、繰り返し起こる出来事にはズレがある。
不確かな記憶と夢が混ざったような。

現在と過去の交錯の仕方が良い。
時を行き来する媒体はなく
この映像こそが装置。
カットの使い方のセンス。
何より人の撮り方が良い。
村上淳がフォトジェニック。
バスの中の表情
スーツの上着を脱いで、スケボーを操る姿が素敵過ぎる。
この上着の扱い方まで格好よい。

登場するのもほとんどディケイド俳優。
これも良いのかもしれない。
ぎくしゃくとした時間の流れの中
調和するキャスティング。
渋川清彦、三浦誠己、河合青葉。
彼、彼女らは過去のパートで学生服で登場する。渋川さんなんか髭生やしたまま。
細かくカットされ、その中に閉じ込められたように。
そしてそれが繋がって映像になるさま。
夢だか空想だか過去だかわからなくなる。
渡辺真起子は二役。母と妻。
「覚えてないの?」「覚えてないけど信じる」
「今までありがとう」「もう遅いわよ」

友人の結婚式に行くため、東京から茨城・水戸へ。
道路の陥没、裂け目。
少年たちがスケボーをする。
東日本大震災の傷跡が色濃い時だ。
三浦誠己が徐々に消えていく。
これもまた、良い。
渋川清彦に言わせた
「あんまり昔話をすると罰が当たる
未来のことを話すのは恥ずかしい」
あの時の火傷の跡…左、いや右だっけ?
記憶はそれくらい移ろいやすい。

ストーリーを追うと、見失う。
私もあれは何だったのか
あれは誰だったのか、
見終わって色々と考えあぐねてしまったが。
画から感じ取るものを大切にしなければと思った。
そして、人、俳優を見る映画だ。
企画段階の元のタイトルは“俳優”
俳優とは何か。
明確な答えはないけれど
同じ場面を繰り返したり、
何度も死んだりする。
その脆さと輝き
記憶と想像
時間、つまりは生と死も交錯している。
でも映画ってこういうものだと感じられる秀作。


公開時は監督が28歳の時。
その時にもっと広く公開してほしかったと強く思った。
お気に入りの1本になりそう。
ストーリー追わない方が、といっておいて、理解したい箇所があるので、もう一度観たい。。


2021レビュー#125
2021鑑賞No.266
空海花

空海花