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ドコニモイケナイのKKMXのレビュー・感想・評価

ドコニモイケナイ(2011年製作の映画)
4.0
 実にハードコアなドキュメンタリーでした。2000年代初頭、歌手を目指して佐賀から上京してきた妃里はストリートミュージシャンとして渋谷で活動しますが、やがて精神の調子を崩していく、という内容でした。
 元々は渋谷で居場所を求める若者のドキュメンタリーを撮ろうとしていたのでしょうが、妃里の精神状態が悪化してしまった事で、別の方向性の内容にならざるを得なかった作品のようです。


 本作が映し出しているゼロ年代初期の渋谷は、行き場のない若者が集まっては、連帯もできずただたむろしていて、悪意のある人たちに搾取されるという地獄のような場所でした(もちろん、そこで救われた人もいるでしょうが)。妃里周辺の人たちへのインタビューがけっこうありましたが、傷ついて渋谷にやってきてぬくもりやつながりを求めたのに、さらに傷つけられるパターンがほとんどでシンドい。宗教に救いを見出したお姉ちゃんも『シークレット・サンシャイン』感がダダ漏れでした。

 もちろん妃里もシビアな運命に翻弄されます。芸能事務所に所属したと思ったものの1週間で解雇され、充てがわれたウィークリーマンションもすぐに出ていかないといけなくなる状況に陥ったりと、いろいろ気の毒。ブラック企業なんて概念も乏しかったでしょうし、小泉竹中の作り出したムードから、最も人権意識の低い時代だったと感じます。
 妃里は『てらこや』というストリートで出会った人たちのコミュニティみたいなものを作ろうとしていましたが、困った時に助けてくれたのは1人だけだったというのもなんか無惨でリアル。逆に1人いたのはすごかったけど。助けてくれた人は個人で輸入代理店をやってる実業家肌の女性で、いい人なんだけどやたらと出会い系とかやりまくるちょいと危うい人。
 本作には当時の渋谷の虚しい感じが完璧にパッケージされてました。その意味でも優れたドキュメンタリーだ。まぁ当時の渋谷は今で言うSNSみたいなモノだったんでしょうね。
 途中でインタビュー受ける若者2人が渋谷は人がいるけど心はない、空っぽだ、と語っていたのが印象に残ります。そして画面から伝わる圧倒的な浜崎あゆみ感もゼロ年代初期って感じでキツかった。あー、当時の渋谷大嫌いだったわ!学校が渋谷だったから行ってはいたけど、基本タワレコ以外行く気にならなかったからね!改めて観ても嫌いですね。


 後半は10年後、故郷に帰ってからの妃里の姿を映し出します。こっちは統合失調症になってしまった人のドキュメンタリー。母親の前では気持ちを押し殺していると語る妃里が切ない。病気を抱えているが故に肩身が狭くなるんでしょうね。作業所って初めて見たけど、キツいなぁ。刺激なく淡々と作業をすることで症状の悪化を防いでいるのだろうけど、あそこで意味を見出すことは難しそう。
 実家の雰囲気もかなり侘しくて、なんとなくつげ義春の漫画を読んでいる気分になりました。妃里の部屋の乱雑さや机の上の倖田來未の写真が心臓をそっと掴まれるようなやるせない感じがしましたね!悲しい!
 地元でも、妃里なりにクリエイティブな活動が少しでもできるといいなぁと感じました。アートセラピーとかどうなのかな?なんとなく『ニーゼの光のアトリエ』みたいなドクターやアトリエが彼女の身近に存在するといいんですけどね。不幸にも病んでしまった人たちが、よりその人らしく暮らせる世界になってほしいとしみじみ感じます。


【追記】
 別の方のレビューで妃里のその後が記されていたのでググったところ、記事発見。
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/497973

 いやーマジか!やはり絵の人だったか。そして8年間入院って、本作の時よりも大変な状態になっているんだなぁ…
 とはいえ、クリエイティブな活動は素晴らしいので、続けているけといいなぁと心から思いましたよ!
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