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最初の人間のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

最初の人間(2011年製作の映画)
4.1
原作はカミュの未完の遺作。カミュについての映画をこれまで2作観た限りでは、カミュの人間性と志向が全く合わなくて、身近にいたら天敵になりそうと思っていたほどでした。本作も最初から批判めいた先入観で観始めたのですが、これは良かったです。多感な少年時代が繊細に描かれ、亡き父への思いが募っていました。

子供の頃の回想シーンと、アルジェリア戦争が激化する中で母親に会いにアルジェに戻ったシーンが交互に描かれ、現在の自分の基盤を成すのに影響を与えた人たちが次々現れます。

いわばルーツ探しですが、カミュが幼いときに戦死した父親と、第2の父として敬愛する誠実な小学校の恩師、正直で理性的なアラブ人の同級生の三人の男性に焦点が当たっていました。

若くして未亡人となった母の隠れた恋愛、家族の規律ともいえる厳しい祖母からの体罰は辛い思い出でした。

ジェンダーで考えるのは危険かなと思いつつも、他の2作でカミュの人でなし感や女たらし感に仰天し、理性は育ったのに、情緒面をうまく育てられなかった理由の一つに、感情を表出する女性への潜在的な非難と、貧困への羞恥心を強く持っていたと感じました。

祖母のエピソードが強烈でした。祖母が息子にする体罰を母は祖母を恐れて口を挟めず、叔父は何事にも無関心で、誰もカミュを助けることができませんでした。

女性二人に育てられ、無垢な叔父(亡父の弟)と一緒に暮らしていましたが、皆貧しく読み書きできず、そこから抜け出したい上昇志向は相当なものだったと思います。

この家族三人からの心理的影響を排除し、自分をアイデンティファイするには、感情に対抗できる理性が必要だったのだと思いました。カミュは自分に足りない情緒を自覚していたのか、無自覚だったのか非常に気になります。

アラブ人の同級生の描き方が印象的です。アルジェリアの戦いで投獄されていた同級生の息子が、身に危険があっても逃げず、仲間を売らず、嘘をつかず、正しいと思ったことを主張する姿が同級生譲りで、カミュは自身の父と子の関係をそこに重ねたかったのだと思いました。

しかし、記憶のない父親像を墓碑や住んでいた農場では確認できず、フランスから自由と豊かな暮らしを夢見てアルジェリアに入植した多数の農民の一人であったことしかわからなかったのです。原作は未完なので、父親についてはここで終わっています。

他作品と本作は重なるエピソードが半分以上ありますが、切り取り方で、いかようにもなることもわかりました。ただ、貫いているカミュ像はやはり冷淡で、若い女性を追い、言葉だけで行動力がなく、ブルジョワ志向です。

短編を3冊読んだだけで、この原作を読んでいないし、映画の他作品2本から得たカミュ像は私には散々だったのですが、タイトル『最初の人間』を原題『最初の男』と捉えるとカミュの矛盾に納得が行きました。

カミュは子供の頃、(満足に食べられず)体が小さく、元気な男の子たちに苛められていました。どこに行っても居場所のなかった少年カミュが、父親像を探しても、父もまた厳しい祖母に叩かれて育っただろうことと、無垢で飄々とした叔父の人間への無関心の中にしか影を見出だせず、アラブ人の同級生に「理想の男」を見い出したのだと思いました。

原作読まなきゃ。
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