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伴奏者のtakのレビュー・感想・評価

伴奏者(1992年製作の映画)
3.8
孤独な人生だと悟りきったように生きるヒロイン、ソフィ。歌手イレーヌへの憧れ、人から信用される喜びを知り、彼女のピアノ伴奏者として行動を共にするようになる。折りしもドイツ軍の影が近づく時代。イレーヌが音楽活動を続けられたのは、夫がドイツ軍と取引していたからだった。親独のヴィシー政権から招かれるが、イレーヌの意見でイギリスに渡ることに。政治的なつながり、夫婦の思いのすれ違い。彼らの間で翻弄されながら、ヒロインが少女から成長していく物語。

クロード・ミレール監督は俳優の魅力を引き出すのがとても上手な監督。シャルロット・ゲンスブール、イザベル・アジャーニ、リュディヴィーヌ・サニエ、遺作ではオドレイ・トトゥを起用して、特に若手からはその年頃の複雑な心情をちょっとした表情から感じさせてくれて、他のアイドル視されそうな映画とは違った魅力を引き出している。この映画のロマーヌ・ボーランジェもそう。そしてその成長を見守るかのように、実の父親リシャール・ボーランジェをキャスティングしているのも面白い。

「人生はいつも私のわきを通る。
 私はいつも置いてけぼり。」
ソフィがつぶやくひと言だ。

一緒にいる夫婦にはいろんなつながりがそれぞれにあるのに、自分だけにはそれがない。そして常に引き立て役でしかない。彼女が感じる自分への苛立ちと孤独感。

この映画を観た当時、僕は仕事のことで悩んでいた。社会人になって最初に勤めた会社で、それなりの経験も積んで周囲から頼られ始めていたけれど、気づくと誰かのしでかした事の尻拭いをすることばかりが増えていて。都合のいい人になってる。このままでいいんだろうか、と考えていた時期だった。

だから、決して表舞台に立つこともなく、誰からも賞賛されない伴奏者であるソフィの気持ちに共感した。他の映画では素敵な笑顔を見せるロマーヌ・ボーランジェは、この映画では大部分ニコリともしない。でも僕はこの映画のロマーヌに強く惹かれたのだ。

映画の最後、結局ソフィは再び一人になってしまう。戦争が人々を翻弄した日々ではあるが、誰かに翻弄された日々でもあった。故郷に向けて歩き出す彼女の姿は悲しげだけど、映画の初めとは違う歩みだと思えた。
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