Sari

伴奏者のSariのネタバレレビュー・内容・結末

伴奏者(1992年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

2023年の映画館始め
クロード・ミレール映画祭にて

激動の時代に翻弄されながら、出会いと別れを経験する、少女の複雑な心の揺らぎと成長を描く。

第二次世界大戦時、ドイツ占領下のパリで憧れのオペラ歌手イレーヌの伴奏者となった少女ソフィが、全てを彼女に捧げてピアノに向かい、音楽だけでなく生活全般の伴奏者として住み込みで、イレーヌとその夫と暮らすようになる。息の合ったコンサートは大成功を収めるが、羨望と嫉妬、また憎しみを抱くようになる。
対独協力者で事業家の夫はイレーヌに愛情を注いでいたが、やがてナチの台頭凄まじく、妻とソフィを連れロンドンに渡る。その町にはイレーヌの若い愛人が居て…。


ミレール自身が「眼差しの映画」と評している通り、イレーヌに対する愛と憎しみの間にある複雑な感情を、ロマーヌ・ボーランジェが眼差しで表現する、特に目に涙を浮かべながらの演技力は素晴らしい。

ロマーヌが実父リシャール・ボーランジェと劇中、他人の設定で、イレーヌを介して三角関係にあることが緊張感を生み出している。
リシャールは声の大きい粗暴な実業家の夫を演じるが、彼が妻の裏切りに絶望し、衝動的な自殺を図るラストへの展開はショッキングである。
ゴダールやドゥミの助監督を経て、一時期トリュフォー作品の制作主任を務めた経歴をもつミレール。この終盤の畳みかけは、トリュフォーの『終電車』『柔らかい肌』『隣の女』を足して、変奏したようなサスペンスである。
本作が眼差しの映画であることを含めて、1984年に他界したトリュフォーへのオマージュだと言えよう。

オペラ歌手イレーヌを演じた旧ソ連の女優エレナ・サフォノヴァが美しく、劇中の歌はローランス・モンティロールが吹き替えだが、口の動きも歌に上手く合わせており、表情豊かに演じていた。

物語を繋ぐのは美しいオペラであり、実際に歌唱していないとしても、『DIVA』のように大きな劇場で聴くオペラは、贅沢な映画体験である。


2023/01/05 センチュリーシネマ
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