月うさぎ

レ・ミゼラブルの月うさぎのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2012年製作の映画)
4.4
「歌入りの映画」ではありません。歌で紡ぐ物語です。だから台詞も歌です。
これが苦手な人はご注意下さい。でも観ているうちに慣れてくると思いますよ。
そして音楽劇なので劇場で、できるだけ音響のよい映画館で観たい映画です♪

ヴィクトル・ユゴー原作の大ヒットミュージカル。ドラマティックなストーリーはあまりに有名なので、ご紹介することは控えます。

監督はなぜ、ミュージカル映画にしたのでしょうか?
レ・ミゼラブルは過去何度も映画化されてきました。しかし今回「ミュージカル版」を映画化したのは初めてです。

ミュージカルとは「お芝居である」という事を片時も忘れさせない、ショーなのです
見せ物だから突然踊ったりもOKな訳ですね。
本作は「歌や踊りをフューチャーした映画」ではなく、全て歌で表現するオペラのようなミュージカルスタイルを徹底しています。
時代の違いによる物語の理解の難しさや古臭さを現実的手法で描かないことで
映画ならではの世界を構築している。
言ってみれば、日本の時代劇と同じ発想かもしれません。
ミュージカル方式をとる事でリアリティよりエモーショナリィに軸足をおき、それは見事に成功しましたね。
エンディングの壮観な演出は舞台のフィナーレそのもので感動的でした!

「ミュージカルは生の舞台に限る」「舞台俳優以外が演じる映画は邪道」そう思っている人もいる事でしょう。
けれど、こうも考えられませんか?
映画ではたった一度の演技が永遠に刻まれる。だからこそ、役者は一生でたった一度の演技にすべてを賭ける。
それを「誰もが」目にすることができる幸せ。それが映画の価値であると。

ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウは文句なしですが、アン・ハサウェイについては当初のレビューでは歌の上手さに厳しい評価も見かけました。
ですが、歌とは技術的に上手く歌い上げればいいというものとは違います。
歌は観客をエモーションの波に乗せるための道具。
演技、映像美、音楽、背景美術や風景、そして役者の顔そのものまで含めた全てが一体化した瞬間こそ最高の力となるでしょう。

私は「I Dreamed A Dream」(夢やぶれて)でで、彼女の本気の演技に心を打たれました。
自分の髪を本当に切り、体重を10キロ落とし、涙と鼻水でぐしょぐしょの顔で、大きな口をあけて歌う彼女の真剣勝負に。
それが通じない人ってどういう気持で映画を観ているのかな?ちょっと不思議。
例えば、この曲を美しく感動的に歌い上げた、かの有名なスーザン・ボイル。
彼女の歌を吹き替えに使用することだってできるんです
事実「ボヘミアン・ラプソディ」では歌は口パク、演奏は演技を選択していますよね。
でも、それを本作ではやらない。役者の歌はアフレコでさえなく、撮影時に歌った生歌です。この点はリアルなミュージカルなのです。フーパー監督はそういう映画を撮ったのです。

2度目に観た今回はジャン・バルジャンの悲劇の人生よりも、革命に命を燃やす若者たちにより強い印象を持ちました。
自分の後に続く人、自分亡き後の未来に対しての希望を持ち続ける事、それができた人たちなのですね。美しかった。

善とは何か?法の正義とは何なのか?絶望とは?罪を赦す、人を赦すということはどういうことか?
大変重いテーマです。
原作は非常にキリスト教的であり、神=善が前提ですが、どの世界に住む人にも共通で大切な問いです。

神に近いのは、ジャン・バルジャンなのか、ジャベール警部なのでしょうか?

PS.コゼットとマリウスの若々しい恋が眩しい。
マリウスってファンタビのニュートだったのか〜!
月うさぎ

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