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レ・ミゼラブルのmofaのネタバレレビュー・内容・結末

レ・ミゼラブル(2012年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

【その歌声に、心が震える】

あまりに有名な、ヴィクトル・ユーゴーの小説を、ミュージカル映画化。
幼い頃、「ああ無情」という学童向けの小説と、
TVでアニメをしていたのもあって、私にも親しみがある。

私の知ってるレミゼは、どちらかというと、
ジャン・バルジャンの波乱の人生を描いていた・・・という印象だけど、
こちらの映画では、
フランス革命以後の時代背景が、細やかに描かれている。

 監督が、「英国王のスピーチ」の監督トム・フーバーである事や、
ラッセル・クロウ ヒュー・ジャックマンという配役に加え、
ずっとずっと、大好きなヘレナ・ボナム=カーターが、出演してるとあって、
ミュージカル仕立てではあるが、是非、観てみたいと思っていた。

 158分という長編であり、劇中の台詞は、ほとんどすべて、歌にのせられる。
画面も暗い箇所があり、眠気を誘うシチュエーションもあるが、
なぜか、胸が高鳴って、眠る所の話ではない。
 一つの台詞、一つの歌声さえも、聞き逃したくない・・・という強い想いが、途切れる事なく、最後まで、私を捉えて離さないのである。

 俳優陣の歌声は、素晴らしく、
パン一つで19年間牢獄に入れられ、憎しみに埋もれてしまったバルジャンの声音は、暗闇に沈み、その重さに、19年の孤独と、怒りが見える。
 しかし、司教と出会い、彼は再び力を得る。

ヒュー・ジャックマンの眼光と、歌声だけで十分だ。

 そして、私自身さして注目もあまりしていなかった、アン・ハサウェイだけど、オスカーをとったときいて、どんな演技と歌声をきかせてくれるのかと思っていたが・・・・。

オスカーにふさわしい、素晴らしい演技とその歌声だった。
仕事をクビになり、娘コゼットのために、
長い髪の毛を売り、歯を抜き、売春婦となる。
 すべてに幻滅し、失ってしまった彼女の、絞り出すような歌声は、
痛々しい。
 それでも、娘コゼットの為に、どうなろうとも生きていかねばならない・・という生への執着も、同時に感じる。
 この「I Dreamed A Dream」は、アン・ハサウェイのアップで、
披露される。
 髪を刈られ、痩せこけた容姿。
画面から、ファンテーヌの悲しみ・悔しさ・諦め・・・・という様々な感情が、
流れてくる。
 歌声と、表情だけで、演じきる。
本当に、名演にふさわしい、シーンである。

 そして、彼女の素晴しさは、これだけで終わらない。
最後のシーン。ファンテーヌが、バルジャンを迎えにくる。
 すべての痛みと悲しみから解放されたファンテーヌが、天使そのもののような表情で、現れる。すべてから解き放たれ、安らかな美貌である。
 バルジャンを迎えにくるという設定でありながら、全く、違和感がなく、
彼女とともに歩き出すバルジャンが、ああ、自分の生涯からやっと、解き放たれたのだと、観ている私も、安堵する瞬間になる。

 物語は、全編ほぼ、台詞は歌声であるが、
時折、ひょいっと、普通の台詞が入る。
 これが、まぁ、凄くいいタイミングで入ってくる。
ぼそっと、ヒュー・ジャックマンの渋く鋭い声が、入ってきたりすると、
身の引き締まる感じがする。
 これが、間延び対策になってるのか?とか、勝手に思ったりして。

そして。
圧巻のラスト・シーンである。
 バルジャンの自由と、市民の自由への歓喜が、交差する。
キャストそれぞれの歌声が重なる。
その歌声は、
赤い旗がはためくような、うねりとなって、
込み上げてくる。
 これは、悲しみでも喜びでもなく、
人間の持つ根本へ、訴え掛ける、そんな歌声なのだ。

 この映画は、何かを学ぶべきものではなく、
 ただ、流れ込んでくる感情を、共に受け入れるだけなのかも。
  そして。
観終わった後、背筋をピンと伸ばさずにはいられない自分がいたりする。
 
銃弾に倒れた学生たち、波乱の人生に翻弄されたバルジャンや、ファンテーヌのように、力一杯に生きているのかな。

生きたいと願っても叶えられなかった方々の分まで、
しっかりと、生きているのかな。
 自分の人生を、しっかりと歩んでいく。
その姿勢が、問われているようにも思う。
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