odyss

ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!のodyssのレビュー・感想・評価

3.5
【サクセスストーリーだけでいいのか?】

世界各国の子供たちがバレエダンサーを目指してニューヨークの大会に出場する。その様子を描いたドキュメンタリーです。バレエにうとく、そもそもこういうコンクールがあること自体も知らなかった私には、勉強になる映画でした。

見ていて、10歳前後からダンサーを目指して必死に努力する子供たちには胸を打たれましたけれど、他方でヘソ曲がりの私は色々疑問も湧いてくるのを押さえきれませんでした。

この映画でも言われているように、バレエを本格的に習うにはお金がかかります。授業料だけでなく、頻繁に履きつぶすトゥシューズ代だとか、晴れ舞台での衣装だとか、諸々。お金持ちの子女でないとそうそうバレエを習うわけにはいかない。無論、この映画の中でも映し出されているように、貧しいコロンビア出身の男の子がアメリカに留学して奨学金付きでバレエを習うとか、貧しいばかりか内戦で殺されかけたアフリカの女の子がアメリカ人に養子として引き取られてバレエを習わせてもらうといったケースもあるわけですが、そういう奨学金や善意がすべてをカヴァーできるわけではない。

旦那さんがアメリカ人、奥さんが日本人のハーフの姉弟が大会を目指す様子も描かれていましたが、見ていると大きな邸宅に住んでいて、中流上層家庭だなと分かります。そういう経済的な環境によって子供たちの身の振り方も決まってしまうのではないか、という疑問を私は押さえきれませんでした。

次の疑問は、この大会で賞を取るのはごく一部の、才能と環境に恵まれた子供たちだけだということです。この映画は一方で、上述のように内戦のアフリカから救い出された黒人の女の子、日米ハーフの姉弟、貧しい南米からアメリカ合衆国に留学している男の子など、人種的にも経済的環境からもいちおう多様な子供たちの姿を追ってはいます。しかし、同時にこの映画はサクセスストーリーでもある。

実際、途中でバレエが嫌になってしまった日米ハーフの弟のほうを例外として、この映画に登場する子供たちは全員、この大会のファイナリストとして演技して賞を取ったり、プロから声がかかったりします。一人の脱落者以外はみな成功者なのです。でも、この大会の倍率がものすごく高いことは同時に言われている。同じように必死に努力しても賞も得られず、プロからの声もかからない子供たちのほうが数としては圧倒的に多いでしょう。

人生では努力しても報われない場合もあるのです。脚光を浴びる一部の子供たちの陰には、その何十倍、何百倍もの挫折した子供たちがいる。それをこの映画は描いていない。そこに私は強い疑問を抱きました。
odyss

odyss