おばけシューター

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日のおばけシューターのレビュー・感想・評価

3.9
予想外に面白かった。

Raft(サメが泳ぐ海を板切れ一枚で漂流するゲーム)が遠足に感じるくらいには詰んでる状況。しかし227日は長いなコレ…
が、単なるサバイバルものではなく冒頭からあまり信用できない語り手と徐々に幻想的になる絵と物語が、意外な結論に繋がる!

パイと虎のリチャードパーカーの関係性が絶妙で、あれのお陰でリアリティラインぎりぎりを保ってる感じ。振り返らずに、のくだりは特によかった!

変に仲良くなったり、動物が言葉を理解したり、
買ってきた高価なオモチャに見向きもせず空箱の方を気に入ったり、虎があくびしたとこにパイが指を突っ込んでその指を嗅いでクサッてなったり、そのあとリチャードを撫でるフリして唾を拭くシーンなんかがあったら興醒めだもんね。(ネコ飼いあるある)


さて、本作はみなさん書かれてる通り、いろいろと考察が可能な作品です。せっかくなのでちょっと考えてみたいと思います。
結末に触れます。

まず元ネタですが、エドガーアランポーの小説があります。4人が漂流し、ひとりをくじで選び食料とする話ですが、その犠牲者の名前がリチャードパーカー。
そして、びっくりなのですが小説発表の50年後に、実際に4人が漂流し1人を食べて生き延びたという事件が起きたそうです。食べられた少年の名前は、なんとリチャードパーカー!
恐ろしい偶然ですが、この事実が本編の「真実」を表していると考えるのは自然なことでしょう。

本編のラスト、記者から救命ボートに動物などのってはおらず、動物たちはそれぞれコックやパイの母親を表していたのではと指摘されます。
つまり、ハイエナであるコックはオランウータンである母親を殺害し、それに怒ったパイがコックを殺害した… 虎は即ち、パイ自身のことが示唆されて話が終わります。ハイエナに襲われて初めて出てきたリチャードパーカーは、言うなればパイの怒りや本能を表すような印象です。

では何故パイはそのような物語をつくったのか。
孤独な日々や家族を失ったこと、罪の意識から自身を守るためというのもあるでしょうが、より決定的な可能性を先述の元ネタから感じてしまいます。
つまり、パイは「動物」を食べて命を繋いだということです。ハイエナを貪る虎のように。そもそも食肉すら口にしないパイにとって、それは直視するにはあまりにも辛かったのでは?


結局なにが事実なのかわからないまま物語は終わります。しかしそれでいいのです。
「解釈は君次第。これはもうあなたの物語だ。」