ごんす

脳男のごんすのレビュー・感想・評価

脳男(2013年製作の映画)
1.0
自分が観賞した作品の中でマイナス方向に金字塔を打ち立てた作品であった。
今まで観てきた素敵な映画達の尊さを知る。

なぜこんな映画が爆誕してしまったのか考えさせられてしまい
2013年公開の映画を調べたり、時代背景を思い出すまでに至る。
スマホが主流になりガラケーという言葉が定着してきてるぐらいの年であろうか。
「倍返し」や「今でしょ!」が流行語大賞の年。
この年公開の自分のお気に入り邦画は「横道世之助」や「そして父になる」「はじまりのみち」などなどがあり、例年通り良いと感じるものもあればハマらなかったものもあり、この年がおかしい!ということでは無くて安心した。
それと同時に今後もこの「脳男」のような作品が生まれるのだろうと考えると暗雲が立ち込める。

連続爆破事件の容疑者(生田斗真)として連行された男は感情を一切持たない男だった…!
こういうあらすじを読むと好みのサイコパスものを想像させられるし、多少の粗があっても感情を持たない生田斗真を楽しめればそれで良しとしたい所。

しかし!この映画はノーマークだった江口洋介演じる刑事が大変なことになっています。
これは本当にびっくりしました。
この役が稀に見る雑なキャラクターであることや脚本、演出が崩壊してるとは言え、これは江口洋介本人の演技力の責任もある気がする。

刑事→デカ
犯人→ホシ
新人刑事→新米

江口デカはこの言葉普通に使います。
せめて、「今時いねぇよなあんな刑事」みたいなことを誰かに言わせるとかしてくれてたらマシだったのですが、この映画では彼がバリバリ活躍できる世界なのです。
この時点でこの映画の志というか、世界観がお分かり戴けるかと。

序盤、江口デカは被害者が運ばれている現場でパシャパシャやってるやじうまの若造のスマホを取り上げ地面に思いっきり叩きつけ破壊!
そして一喝!!
胸ぐらを掴みながら
「見せもんじゃねーんだよ、人が死ぬのがそんなにおもしれぇーがぁあ!?」
同僚の光石研に止められた後も
「最近の奴等はなんでもかんでもカシャカシャとりやがって……どうなるんだァ!この国は!!!」
登場して早々かなりうるさいです。(声量的にも)

一応誉めポイントも忘れずに書いておくと時代的にスマホ、ガラケーが今よりも混在していた時代なのでどちらを持たせるかでその人を描き分けられたわけです。
そして江口デカがちゃんとガラケーを使っている描写があったのが良い演出でした。

もう全編通して彼は暴走していて
仲間である光石研との朝の挨拶で仏頂面を指摘されると「気の利いたギャグでも飛ばしてくれればちったぁ愛想良くしてやるよ」と返す。
後半刑事(新米)に対してはニヒルな表情を浮かべ「この小便垂れの童貞が!」などなど。寒い台詞の連打です。

敵とのやりとりではアドレナリンも出ているので「ずいぶん派手にやってくれるじゃねぇかぁ」や「オイタしてねーだろうなぁ!?」など…
間違った洋画の字幕よりもきつい台詞を声に出す!
もうこの人格だと、片腕がマシンガンになっている…とか目からビームを出せる!レベルの特殊能力がないと納得できない。
そしてなぜ彼がそんな人になってしまったのかは特に台詞でも映像でも説明されなかった。
この前に2シーズンくらい連ドラやってた?と思うくらい当たり前に野蛮で押し付けがましい正義を見せられる。
その割りに彼は仕事ができるのかできないのかもふわふわしていてよくわからない。

かろうじてカウンセリング担当の松雪泰子演じる女医が江口デカに対し「あなたもカウンセリングが必要なんじゃないかしら」的な全うなことを言うシーンがあったのは良かったが松雪女医もかなりデフォルメされたキャラであなたもなかなか…と思ってしまう。

自分を含め多くの人が「脳男」と思われる生田斗真や何やらサイコ感の強そうな二階堂ふみを楽しみに観ると思うのだけど、江口デカだけでなく松下女医のいかにも「~だわ!~のはずよ!」といった演技も自分には悪目立ちに感じてしまい生田斗真渾身の瞬きゼロ演技なども掠れてしまう…。
観終わってみて「脳男」が一番印象が薄く感じる結果となってしまった。

二階堂ふみのサイコっぷりも「サイコっぽくお願いしまーす!」とか演出を受けたのかなと思ったぐらい…。
それでもこなしていてすごいのが江口洋介や松雪泰子との違いに思う。
やはり監督だけの責任ではないのでは…とも今回は思った。


脚本はご都合主義を極めていて特に然るべき所でちゃんと拳銃の弾が切れる所なんかは伝統芸を観ているような気持ちにさえなる。

新米くんの扱いは本当に酷くて悪趣味。
(危ない目にあった時の江口デカの新米ーー!!!と絶叫する所は嘘だろと思い笑ってしまうが)ここまで物語の都合の為だけに産み落とされ、しかもそれが機能しているかも謎なキャラクターは珍しい。
なんと愛のない…。

生田斗真に感情が無い理由は語られる回想で強引に納得することにした。
そもそもデカだのホシだの言って大暴れしている刑事が鼻つまみ者にされずに活躍している世界なので、リアリティーラインなんかを考えるのもアホらしい。

それでも盛り返せるチャンスがこの映画には残されていてそれが染谷将太と松雪女医の話だったように思う。
そこさえしっかりしていればもう少し好きになれたかもしれないのに本作のあの片付け方は勿体無い。
江口デカの寒い台詞や退屈な戦闘シーンを削って染谷将太エピソードこそ描くに値したのではと思ってしまう。

しかしこのレベルの脚本は出来上がった時のチェックなどはどんな人がどのくらいの人数で行っているのだろうか…純粋に気になる。

最後に名指しで演技力が…と書いた江口洋介をフォローするわけではないが「孤狼の血」で彼が演じたヤクザは自然体とは真逆の少し誇張されているような彼の演技がプラスに働いていると思った。
「極道は顔で飯食うとるんだよ」みたいなザ!ヤクザ映画!な台詞を彼が言うとカッコいいと思い、キャスティングや演出、演技とは本当に面白いものだなと考えさせられた。
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