映画太郎

遺体 明日への十日間の映画太郎のレビュー・感想・評価

遺体 明日への十日間(2012年製作の映画)
4.5
運び込まれた遺体を車から下ろす時、うっかり遺体を落としそうになる。作業員の1人が叫ぶ。「丁寧に扱ってくれよ 同じ街の人間なんだからさ 自分が同じ事されたらどう思うよ!」

震災をこんなアプローチで描くなんて想像できなかった。けれど、これも震災の一部なのだ。テレビで被災地を見ている時は、遠く離れた客観的、俯瞰的視点だが、被災して、家族や知り合いを亡くした人達にとっては、一人ひとりの目の前の現実なのだ。

汚い工場の様な場所をきれいにする、死後硬直をマッサージで戻す、ある物で簡単な祭壇作ると皆んなが手を合わせるようになる、やがて棺が運び込まれて、住職がお経をあげる、様々な地域で火葬ができるようになり、棺が運びだ出されていく。震災直後、電気も水も十分じゃないところから、人々が少しずつ協力してできた事だ。

本作では人の死よりも、大切な人を失った悲しみが苦しい。中には自分なんかが生き残ってしまったといって自分を責めてしまう人もいる。助けられなかったのは自分のせいだと自分を責めてしまう人もいる。娘の遺体の側から離れない母親がいる。こんなに悲しい葬式は見た事がない。涙が止まらなかった。

実際は、火葬が追いつかず、宮城県の6市町で2108体が土葬になった。また、一旦土葬にしてから後で掘り起こして火葬にする「仮埋葬」も行われた。

本作は、ジャーナリスト石井光太が、岩手県釜石市の遺体安置所で見た、ありのままを綴ったルポルタージュ「遺体 震災、津波の果てに」を映画化した作品で、作品の収益金は被災地に寄付される。
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