みほみほ

遺体 明日への十日間のみほみほのレビュー・感想・評価

遺体 明日への十日間(2012年製作の映画)
4.0
🙏2024年15本目🙏

震災の苦しみや悲しみは消えないけれど、人として大切な心が染みついた作品の温かさが救いでした。

個人差はあるけど、人が亡くなった途端に死体と捉えて距離と感じてしまう気持ちは少なからず誰にでもあると思う。

自分は早くに親が亡くなったからか、いつからか死者を遠くに感じなくなったので、劇中の西田敏行演じる男性のように遺体に問いかける気持ちがとても分かるけど、そういった思いをあれだけの人間の中で意思表示し、周囲に伝染させていくって勇気のいることだと思う。

思っていても心の中だけに秘める自分のような人間ではあの場の空気や体制を変えられなかっただろうし、自然とああいった風な振る舞いができる真の優しさと思いやりの気持ちは、絶対にご遺体に伝わっていると思う

表情が変わるのは絶対に思い込みなんかじゃないし、そういった心で接してくれたら自分が命を落としてしまった側ならどれだけ嬉しいことか。

寒くて家族と会えなくて寂しくて苦しい時に、人の優しさで尊厳だけでなく 心に寄り添う優しさ。

皆それぞれが精一杯で、ひたすら遺体を回収する人も運ぶ人も検死する医師も歯科医も、一人一人が何かを抱えている。

最初の方は志田未来や勝地涼演じる若い役所の人間がまさに立ち尽くしている状態で、責任者っぽい筒井道隆演じる男性もどこか頼りなくてイライラしてしまったけど、突然無数の遺体が安置される現場での仕事を任されたら、テキパキ動ける方が稀なのかもしれない。

遠くからだと好き勝手言えるけど、当時の現場、それも棺桶すら無く泥だらけのご遺体が無造作に雑に扱われていたところから、少しずつ状況が良くなっていって、それぞれの心に弔いの気持ちと想像力と労りが生まれていくのが良かった。

この映画、今日の今日まで知らなかった。眠れないとYouTubeつける癖がついてて、たまたま東日本大震災の動画が目に入って、そこからこの映画に辿り着いて観てみよう!となったのがきっかけ。

原作は石井光太さんのルポルタージュ「遺体 震災、津波の果てに」、監督脚本の君塚良一と共に現地と訪れ、関係者と会った上で映画製作を進めたとのことなので、信憑性のある内容なのだと思え余計に感動が増したので観れて良かった。

本作を観ていたら、日航123便墜落事故の遺体安置所のエピソードを思い出した。本作の西田さんのように、飛行機事故でもっと悲惨な状態になったご遺体の一部に話しかけ続けた医師(看護師だったかな?)がいて、どんな姿になっても生前の心に問いかける姿勢とその優しさ。
周囲からはおかしくなったと噂されていたみたいだけど、どんなに肉片になっても首だけになっても、誰かのご家族や大切な人だと言い聞かせ執念の検死に当たったそのお心に感銘を受けた。

死は残酷で突如心を引き裂く。それが震災だと一度に多くの人の命を奪い、苦しみを抱えた人が同時に無数に存在してしまう地獄が起きる。どの立場で対応するかによって見える世界は変わるけど、どの立場に居ても逆の立場で考える想像力を忘れずにいたいと思った。

鑑賞から暫くして、モデルとなった方が性犯罪を犯していたことを知った。とてつもなく悲しい。周りの人の証言が嘘であって欲しいと思う…皮肉だなぁ…
みほみほ

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