さわら

あの娘が海辺で踊ってるのさわらのレビュー・感想・評価

あの娘が海辺で踊ってる(2012年製作の映画)
4.0
AKB、パピコ、ドリンクバー。熱海で鬱屈した気持ちに苛まれる、その気持ちを原動力にしアイドルになろうとする舞子。日本舞踊を習い、熱海で生きることに不満も持たず、友人関係も近すぎず離れすぎず、「仏」と称される菅原。舞子と菅原、刺々しい針のような舞子の暴力的な言葉、不器用すぎる言葉を受け入れる菅原の海のような寛大さ。熱海を舞台に支え合うふたつの魂。すごく綺麗だった。美しかった。
そこに現れる、ふたりの男子高校生。ふたりだけのピュアな世界の異質物として排除しようとする舞子、異質なものを受け入れ愛そうとする菅原。ふたりの不調律として存在する彼らも無垢なのだ。悪気はない。だけどそれに気づいたときは、全てが遅くて切ない。ひと夏の物語。
日本映画を支え立つ(であろう)山戸監督の処女作、画は粗いし、安定しないカメラは揺れまくり酔う。音声も雑。だけど音楽のセンスはピカイチ、入れ方も最高。そういう嗅覚は天性のもので、のちの傑作『おとぎ話みたい』への萌芽ともいえる。
山戸映画に出てくる少女たちの処女性やら、舞台となる“田舎”。「監督の最高傑作は処女作」なんて言葉があって、正直そこまで言えるかは甚だ疑問だけど、たしかに山戸映画のエッセンスが凝縮され、これは監督の“所信表明”であり、“記念碑”でもあった。だから、そういった意味ですごく貴重なんだけど、でも粗雑だし剥き出しだから、見世物としてどうかと思う気持ちも少しはある(それに好きな人の全てを知りたいなんて、“陰”がなくてつまらないじゃない)。山戸監督が“永久封印”したくなる気持ちもすごくわかるし、そういう点が監督に信頼のおける所以である。久しぶりの解禁、わざわざ刈谷まで遠征した甲斐があった。たまに観せるぐらいでちょうどいい。
次回作は都心で闘う、ビッチな女のコ映画が観たい。山戸の撮る“東京”、そこになにが映るの?なにを語るの?末楽しみな映画監督です。

@刈谷日劇