真一

空気人形の真一のレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
3.6
 性のお相手をする空気人形🎈の女の子(ラブドール、価格5980円)が人の心を持ってしまうという、不思議で切ないファンタジー作品。ピュアなハート♥️で現代社会に迷い込んだラブドール「のぞみ」の無邪気な目線👁️を通じ、私たちの誰もが他人を代替可能、使い捨て可能な空気人形🎈として扱おうとしている「悲しい現実」を浮き彫りにするストーリーだ。

 「のぞみ」の持ち主で、孤独な中年男性の秀雄。秀雄は昼間、バイト先のファミリーレストラン🍴🍝で、年下の上司👤から「役立たず」「お前の代わりなんていくらでもいる」となじられている。バイト先からみれば、秀雄は誰とでも代替可能な「空気人形」🎈のような存在だ。その秀雄にとっての楽しみは、帰宅後に「のぞみ」と戯れることだった。無言のラブドールの前で、ビール🍺片手に愚痴をこぼし、愛👫をささやき、性行為🔞に励む秀雄。生きる目的を見いだせず、ただ一心不乱にラブドール🎈にしがみつく中年男の姿に、悲哀を感じる。

 そうした中で、のぞみは人の心を持つようになる。人間らしい見た目になり、言葉も話すようになる。同時に、自分が持ち主の性のはけ口であり、代替可能な玩具である事実も知る。「心を持つと、切なくなる」。のぞみを演じる韓国🇰🇷出身の女優ペ・ドゥナのたどたどしい日本語が、胸にしみる。真人間🚶‍♀️は誰か。空気人間🎈はどっちか。そもそも現代日本に、代替可能な「空気人間」でない、本当の真人間👥なんて存在するのか―。是枝監督が手がけた本作品は、観る人にこう問いかけてくる。
 
 ここで考えてみたい。高度に分業化し、誰もが社会や組織の歯車⚙️になっているこの21世紀日本🇯🇵で「替えが効かない人物」なんて、本当にいるのだろうか。二刀流の大谷翔平選手⚾はそうかもしれないが、どう見ても少数派だ。政治家だって財界人だって文化人だって芸能人だって、ほとんどは入れ替え可能だし、現実に入れ替わっている。会社員や非正規労働者などは言うに及ばずだ。消耗したら、はい、さよなら。「私はかけがえのない存在」と思い込んでいるのは本人だけで、この社会システムの下では、私もあなたも周囲から見れば空気人形🎈―。本作品からは、こうしたメッセージがくみ取れると思う。

 映像的には、ラブドールがいかにも着そうなコスチュームに身を包み、ぎこちなく歩くペ・ドゥナの演技が光った。それと、余貴美子扮する年増の受付嬢が目を引いた。隣の若い受付嬢が若い男性客に声をかけられ、いいムードになっているのを見て、無関心を装いながらも傷ついていく様子がリアルすぎる!代替可能な「空気人形」のメタファーであることが手に取るように分かった。

 総じて良い作品でした。「エクス・マキナ」とセットで見るのも面白いと思います。
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