CHICORITA主任

空気人形のCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

空気人形(2009年製作の映画)
4.6
池袋新文芸坐にて、トークショー付き上映を観てきました。

『怪物』『万引き家族』などで知られる是枝裕和監督の2009年の作品。『自虐の詩』業田良家のマンガを原作に、心を持った空気人形=ダッチワイフを通して、人間の抱える空虚さとそれを埋めようとあがく姿を描きます。

トークショーで「本作は主演のペ・ドゥナと撮影監督のリー・ピンビンの映画である」と監督が語ったように、何よりペ・ドゥナの存在、演技と撮影、画作りが抜群に良い!
性処理ダッチワイフが主役なので、彼女の裸やセックスシーンも当然数多くあるのですが、不思議といかがわしさ、いやらしさは感じられず、思わず見入ってしまう美しさのある映像でした。

ただ、終盤の井浦新との行為のシーン、空気人形である彼女の空気を抜いては吹入れるくだりには、何とも言えないエロス(タナトス?)が感じられ、その後の悲劇的な展開とセットで本作の白眉となっています。
このシーンは監督によれば、撮影前に行われた実際のダッチワイフを用いた調査において、空気を抜かれて萎れていく人形の姿にえも言われぬエロスを感じた経験がもとになっているそう。
同じく終盤に登場するオダギリジョー演じる人形師も、ほぼあのままなモデルがいるとのことで、取材を通して映画のテーマに向き合う、是枝監督の真摯さが感じられるエピソードでした。

比較的初期の作品ということで近作と比べると荒削りな部分も感じられましたが、ペ・ドゥナのあの瞬間を切り取る、という意味ではその時にしか撮れなかった映画ともいえ、監督自身が語ったように「作られるべきタイミングは作品自身が選ぶ」ということなのでしょう。

ファンタジックで寓話性の高い、監督のフィルモグラフィ的には異色の作品ながら、人間の本質に真摯に向き合い迫る、監督の目線の一貫性も十分感じられる傑作でした。

まだ上映あるようなので、間に合えばこの機会にぜひ劇場で、フイルム上映にてご覧ください。
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