おだんごスプリング

空気人形のおだんごスプリングのネタバレレビュー・内容・結末

空気人形(2009年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

Yahoo!映画からのレビュー引っ越し。

ペ・ドゥナが素晴らしい
ペ・ドゥナが素晴らしいです。
リンダリンダリンダの時のスンちゃん役もたまらなくかわいかったけど、今回はそれともまた違う可愛さ。
彼女でなければこの作品は絶対に成功していなかったと思う。
ダッチワイフが突然心を持ち動き出すという設定上、世間のことを何も知らない彼女。
その何も知らなすぎるしぐさや態度が下手をすると同性から見るとうっとおしいというかあざとく見えてしまいかねない役どころだったと思うのですが、日本語がカタコトなことも相まって、いやらしさが全然ない。
人形が歩いているようにとてとてと歩く姿も、不思議そうに首をかしげるしぐさもすべてが愛おしくてかわいらしい。
彼女の魅力だけでも2時間十分楽しめる内容だなと思います。

そして、本当に美しい映像。
邦画より、フランス映画とかそっちに近い感じの、詩的で哲学的な物語。


のぞみは、心をもって外に飛び出すことで、子供と同じようにひとつひとつ世界を知っていく。たくさんの悲しい人たちにであう。

すごくかわいかったのが、町で出会ったおじいさんに「わたしは空っぽなの」といって、「みんなそんなもんだよ」と言われる。
その後いろいろアクシデントがあって純一に人形であることがばれてしまったときに「でも結構いるらしいじゃない?」と得意げに聞く彼女がすごくかわいかった。
空気人形の純粋さがすべて表現されていた一幕。

純一に恋をしたことで彼女は切なさを知った。
純一に恋をしたことで彼女はウソを知った。
純一に恋をしたことで彼女は人に満たされる喜びを知った。

彼女が経験していくことすべて、わたしたちが人生で経験していくこと、してきた事なんだなぁとぼんやり思った。
切ない思い、ウソを知らずに生きてはいけないし、誰かに満たしてもらわないとだれも生きていけない。

個人的にはやっぱり井浦新すてきだなあと。
声がいいというか、純一っていう役柄にあってたなぁと思いました。
純一は、妻をなくした(はっきりした描写はないけど恐らく)空っぽなひと。
だけど、個人的にすごいすてきだなぁと思ったのは、のぞみ人形の質問に全部答えを返してくれて、「他に何か知りたいことある?」と優しく言ってくれるところ。
何事にも自分なりの答えを持ってる人はすてき。
たんぽぽ枯れてるのみて「かわいそう」って彼女が言ったときに「仕方ないよそうじゃないと世の中が生きものであふれちゃうから」と言った言葉がなんか切なくて素敵だった。色んなことを自分の中で折り合いをつけて生きている人なんだろうなと。
そうしないと生きていけない事情がある人なんだなというシーンだった。


印象的なしーん。

純一が息を吹き込むシーン

ビデオ屋で働いている時に腕が破れてしまい、空気が抜けてしまった彼女に純一が息を吹き込むシーン。

彼の息で満たされるのぞみ。

この映画の中ではその行為=ラブシーンとして捉えられているのですが、そのシーンがとてつもなく官能的。
いやらしい意味じゃなく、好きな人の息で満たされていくのぞみの表情とか、お互いに荒くなる吐息とか、好きな人の息で満たされる幸せという事実がなんとも官能的。
こんなに官能的でロマンティックで美しいラブシーンを見たのは初めてです。
これはほんまにすごい。

純一はその後のぞみに空気を抜かせてほしいと頼むようになるんだけども、空気が抜けていくのを見ることで彼の空っぽな気持ちが満たされるのか、抜けた空気を自分が満たしてあげることで自分を満たしているのか、そのあたりはよくわからなかった。
誰しも人から満たされたいし満たしたいのかなぁ。

ラストは結構衝撃的ですが、それしかなかったんかもなあという感じですた。


花がいつか枯れるように、わたしたちも皆いつかいなくなる。
だけどそれまで、たくさんのものをなくして、生きていかなくちゃいけない。
彼女は心をもって、切なさを知って、そして何かをなくしたのかもしれない。
だけど、心なんて持たなければよかったと彼女は思わなかった。
生きるのはつらい。人とかかわることは難しい。
人を好きになると心はもっと苦しくなる。
それでも、誰かを満たしながら、誰かに満たされながら生きていくしかわたしたちは生きていけないのかもしれない。