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ジャックナイフの一人旅のレビュー・感想・評価

ジャックナイフ(1989年製作の映画)
4.0
デヴィッド・ジョーンズ監督作。

アメリカ北東部の田舎町を舞台に、ベトナム帰還兵の二人の男の衝突と和解を描いたヒューマンドラマ。

ロバート・デ・ニーロ主演で、しかもいわゆる“ベトナム戦争傷跡モノ”の中の一作ということで名作『ディア・ハンター』(1978)の下位互換的位置づけの映画かと思いきや、予想以上に心にずっしりくる物語の秀作であった。長らくDVDが廃盤状態となっていた作品だが、嬉しいことについ先日再発売された。ただ、DVDの画質はとても悪く、人物の動きに少々カクツキが見られるのが難点。

主人公はベトナム帰還兵の二人の男、メグスとデイヴ。ベトナムで体験した悲惨な過去を乗り越え日々を前向きに生きるメグスと、彼とは対照的にベトナムでの出来事が脳裏から離れず他人を責め続けてばかりいるアルコール依存症のデイヴ。物語は、久方ぶりの二人の再会と衝突そしてその先にある和解と過去の克服を、メグスとデイヴの妹マーサの恋と、ベトナム戦争で二人が体験した悲劇の回想を交えながら描き出す。『ディア・ハンター』の回想シーン(狂気のロシアン・ルーレット)と比較すると可哀想なほど緊迫性・狂気性に欠けるが、それを差し引いても戦争の死と狂気に心を完璧に破壊された男の痛みと哀しみがひしと伝わる作劇で、充分過ぎるほど見応えがある。

タイトルの“ジャックナイフ”は主人公メグスのあだ名。戦争中、悪さばかりしていたメグスに親友が付けたあだ名だが、実は本当のジャックナイフはメグスではなくデイヴのことを指す。デイヴはメグスの粗暴な過去を責め続けるが、帰還後誰よりも心をナイフのように尖らせているのは他でもないデイヴ自身。メグスは心の闇からデイヴを救い出すため、真正面から彼とぶつかり本音で語り合う。クライマックスの会話劇は感動的で、デイヴの目から零れ落ちる涙に全ての意味が込められている。

主演のロバート・デ・ニーロの演技は言うまでもなく素晴らしいのだが、今回に限ってはエド・ハリスの演技が至高。賞を獲得していても何ら不思議ではなく、戦争により心を閉ざし続けるデイヴを迫真性に満ちた熱演で魅せる。マーサ役のキャシー・ベイカーの飾らない演技も出色。

『ディア・ハンター』の影に隠れた、不運なベトナム戦争傷跡映画。小粒な作品ではあるが、中身は立派なヒューマンドラマの秀作。
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