チッコーネ

東ベルリンから来た女のチッコーネのレビュー・感想・評価

東ベルリンから来た女(2012年製作の映画)
4.0
80年代初頭、東ドイツの地方都市が舞台となっており、その雰囲気を無理なく再現するロケーションが美しい。
ドイツの東西分裂という過去は理解していても「ベルリン州も東西に分裂」というイメージが明確に湧いてこなくて、戸惑ってしまった。
壁があったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが…、やはり西側世界の直近である東ベルリンには、亡命を志す人々が多く潜んでいたようだ。

本作は共産主義社会の醜さ、恐ろしさを鮮明に浮き彫りにしているという点で、資料価値が高い。
何らかの理由で反共分子と認められ、地方都市に左遷されてきた医師であるヒロインは、絶えず監視の目を恐れながら暮らしている(監視者は党の命令を受けた隣人)。
また定期的に訪れる役員が自宅のソファからタンスまでを引っ掻き回すだけでなく、同性の役員から陰部を含む身体検査を受けるという屈辱を、甘んじて受け入れていた。
高邁な共産主義のismを人間が実践し始めると、なぜこのような生活が日常となるのか…、しかし過去に破綻した共産主義国家や北朝鮮が似通うルートを辿っていることは、すでに歴史が証明済みだ。

本作を他人事として観る日本の若者、そして子育て中の世代には「習近平率いる中国共産党が香港、台湾の次に日本を狙うかもしれない。それは遠い未来の話でないかも。そうなったらインターネットひとつ自由に閲覧できなくなり、異を唱え行動に出た者には、本作のヒロインのような境遇が待ち受ける社会となってしまう」ことに、気づいて欲しいと思う。

より右傾化が強まる地方都市で同化を頑なに拒んできたヒロインが、思想でなく経験の力で軟化し、高潔な行動を選択する流れは感動的。
またドイツ産極上美熊に認定したいロナルト・ツェアフェルトの魅力に、私までほだされた!