ねこじた

アンチクライストのねこじたのレビュー・感想・評価

アンチクライスト(2009年製作の映画)
4.3
宗教観の強い表題。
言わば、自虐や自己否定で自分を取り戻す自慰性を感じたのも納得。当時、鬱病のトリアー、やっぱこれ彼のセラピー映画。
作品そのものがメタファーしてて観念的だ。一周回って俯瞰すれば、ありふれた題材を異常と思わせる特異な表現力。
器用なのか不器用なのか解らないけど、これが彼の神秘さ。

女の本質は悪魔、として攻めて来る。この作品も、女性嫌悪が酷い。女性というより、官能の崇拝への激しい嫌悪と非難に感じた。まるで厨二病。

冒頭のモノクロシーンが終盤にも出て来るのだが、最初と終わりでは意味合いが全く違ってる。
ここで、あの強烈な性器への暴力の意味を納得する。


女の本質は悪魔。で、女性への虐待は女の本質のせい。これはトリアーにとって、女への絶望であり希望。批判であり、最高の賛辞でもあるかと思う。
愛と憎しみは表裏一体。
絶望はまた希望に満ち溢れてるもんだ。
彼(男)に、逃げ場は無い。女の呪縛からは逃れられない。メッセージ性の強い皮肉なラストシーンには浄化もある。

また、自然も悪魔だとする。
自然は悪魔の教会。
自然と女を悪で繋いだ。
両者の持つ原始的な共通項が興味深い。どちらにせよ、両者とも頗る美しく撮られてる。

エデンの園は、女が初めて罪を犯した場所であり、そのエデン(自然)へと帰ることで、彼女は、罪無きものの魂の声を聴く。自然は女の本質の悪魔の引き金役になる。

ネガティヴを語るには強さが無ければならない。試される映画。
あらゆる快楽には必ず残酷さが混じってる。

幻想的かつ寓話的に人間(トリアー自身)の弱い部分、本質をリアルに描ききったエネルギッシュな作品。
「理解しなくていい、僕を信じればいい」
ねこじた

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