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かぐや姫の物語の海のレビュー・感想・評価

かぐや姫の物語(2013年製作の映画)
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可笑しくて面白いことだけのためじゃなく、うれしいときや、愛していると伝えるとき、美しいものを見たしあわせを言葉に起こす代わりにもわたしたちは、笑っているんだ。そのことを、何度も忘れてしまいながら生きてきた。いまもほとんど忘れているのかもしれない。なんのために生きているのかさえ答えられず、しあわせは後ろめたくないもので夢を語ることは恥ずかしくないことだと分かっているけれどまっすぐにできない。風や水、陽光や月あかり、猫やだれかの歌にすくわれ、きっとあいされてきただろう自分のこのいのちに、これからも同じように美しいものが降り注いでいてくれたら、それだけで生きていけるはずなのに。わたしは弱いから、忘れてしまわないと生きてはいけないことがあって、けれどわたしは強いはずだから、忘れたまま死んでいきたくはないの。人間は美しくなんかない。でもひとの心はときどき、すごく美しくなることがある。かぐや姫は月に帰る、もう何も思い出せなくなっても、いつか地を白く染めていた雪のように静かに積もったまま動かぬ記憶のために、涙をこぼし頬笑むのだろう。白と黒のその目で、たくさんの色を見ていた。思い出せなくても忘れないようにと、あなたのいのちが呼んでいる。
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