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愛、アムールのkikiのレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
5.0
痛いほどに現実だったし、苦しいほどに愛だった。
終盤で一気に虚無感に襲われて、エンドロール後は感情ぐちゃぐちゃの思考停止状態なりましたわ。一晩経ってやっと整理できた気がする。(思い返しただけで泣けてくるけど)

まず映画の構成として、結末を敢えて冒頭で見せてタイトル、ピアノ公演のシーンは客席を長回しで映すという始まりで一気に心掴まれた。そしてフォーカスされるのは老夫婦。ジョルジュとアンヌ。
帰宅後、愛する妻のコートを脱がせて
「今夜のきみはきれいだったよ」
もうこの一言だけでアンヌへの愛情がぐっと伝わってきた。

そこからはずっと下り坂のような展開だった。

この映画を観ながら、末期癌で亡くなった祖母のことを思い出した。延命治療を希望しなかった祖母もアンヌのように、最期の時を病院や施設より自宅で過ごすことを選んだ。
在宅介護はする側も受ける側もとにかく疲弊する。
愛する人が心身共に弱っていき、意思の疎通も取れずまるで赤子のような状態になり、死に向かっていく様子をただ受け入れながら支えるしかない。

愛する人に生き続けてほしいと願うことも、相手の重荷になるくらいならと死を望むことも間違いなく愛だ。でもそれは時に欲望で、エゴで、呪いにもなり得ると思った。
ジョルジュがどうするべきだったか正解は無いし、誰にもそれを決める権利は無い。第三者には推し量れないほどの絆が二人には確かにあって、その強い絆が二人をあの家に閉じ込めたのかな。

劇中に二度登場する鳩は愛の形のメタファーと受け取った。一度目は冷たく追い出したのに、二度目はブランケットで捕まえた後そっと抱きしめ、最後には外へ放ってやる。孤独と悲しみを埋める温もり。どれだけ愛おしくそばに置いておきたいものでも永遠に閉じ込めてはおけない。ジョルジュにとって手放すことが愛だったのかもしれない。

個人的にこの作品の最高だった点は余白の多さ。解釈の余地を残して余韻に浸らせてくれる作品がほんまに大好き。敢えて長回しのカットが多かったり、劇中曲はほぼ無しで生活音と息づかいがとても印象的だし、ざらついた質感の映像、まるで実在している老夫婦の人生を覗き見している感覚だった。


かなり精神を削られるので頻繁には見返せないし、わざわざ見返したいと思うかはわからないけど、確実に記憶に残り続けるし、自分の大切な人と観て感情を共有したいと思える作品でした。
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