R

愛、アムールのRのレビュー・感想・評価

愛、アムール(2012年製作の映画)
4.9
これマジ究極の映画。これで4回目の鑑賞やけど、こんなヘビーな映画、なかなかお目にかかれまい。しかも見るたびに、そのときの気分なのか何なのか、結構見え方が変わる。事故等で中断されることがなければ、どんな人間も絶対に避けることのできない、人生最大の苦しみー老、病、死。そのあまりにも残酷な現実をハネケがえぐりにえぐり出します。重すぎます。お話は、消防隊が死臭のきついマンションの一室に押し入って、ベッドの上に老人の腐乱死体を見つけるところから始まる。一体何があったのか。時は遡り、仲睦まじい80代くらいのピアニスト老夫婦ジョルジュとアンヌが、綺麗なマンションで、満ち足りた幸せな老後を送っている。長い人生を共に歩んできた誇りと愛のオーラが彼らを包んでいる。だが、ある日、突然アンヌの時間が止まってしまう。いったんは元どおりになるも、検査してみると病気が見つかり、早期対処のため、成功確率95%の手術をすることに。不運にも、手術は失敗。右半身が麻痺し、今後、少しずつ、容赦なく、確実に、麻痺は全身に進んでいく。プライドの高いアンヌは、入院や介護士を嫌がり、すべての世話をジョルジュに任せる。ベッドの上り下りも、移動も、下の世話も、入浴も。ジョルジュは盲目的なほど献身的に看護を続け、やがて、外界との接触が減り、彼らは、自ら進んで、隔絶されたふたりだけの生活を送っていく。という流れで、とにかくもー見てるのがつらい。それは彼らを見てるつらさだけじゃない。自分もやがて似たような状態にならないとは限らないし、少なくとも老病死は、生きていくならば絶対に避けられない。この現実。この過酷な現実を、こんなにひしひしと感じるなんて、普通に生活してる上ではそうそうない。そのことに見てる間ずっと向き合わされる。ほんとにすごい体験です。あと、前半出てくる外部の人たちの別世界感がこれまたキツい。両者ともまったく悪意なきまま、生が継続する者と死に接近する者の間に、目に見えてしまいそうなほどの断絶ができてしまう。そして、ジョルジュもアンヌもそれに対して投げやりな諦めを決め、冷徹に拒絶することしかできない。よって、部外者がとんでもなく冷酷にも見えるし、ふたりが極めて身勝手にも見える。これが見ててホントつらい。そして、最後の展開には思わず、えっ!!! えっ!!! えーーー!!! 絶句することしかできない。涙すら出ない。すごい。好き。ハネケ。好き。そして、ジョルジュとアンヌを演じたジャンルイトランティニャンとエマニュエルリヴァの演技のすごさ! この歳でこの演技をするの、精神的に相当つらかったんじゃないかな。あまりにリアルすぎて。それとも彼らくらいの年齢になると、もはや達観してるもんなんやろか。いやーホンマに、とてつもなく重い映画でした。ちなみに1回目見たのは劇場でした。大きな劇場のなかにいた観客のほぼ全員が、ひとりの老人、または老夫婦だった。上映が終わって劇場を出るときの沈黙の重さ……彼らはいったい何を感じていたのだろうか。この映画は今後も何度か見ることと思います。見るたびに、軽くとらえられるようになっていったらいいな。

ちなみに、ここから下は、かなり前に見たときの感想文です。記念に載せとこ。

二回目見たけど少し感じ方が変わった。深く愛し合う夫婦の老老介護を死ぬまで描いた作品なんだけど、見ようによっては悲しくも美しい愛を貫く映画だし、シニカルな見方をすれば、身勝手なふたりのわがまま放題、更にひねくれさせると戦慄のホラー映画にも見えてくる。が、それでもやっぱり、誰しもがいずれ訪れる現実的な終末に思いをはせざるを得なくなるような、個人的な感情にズシンと入ってくる、極めてヘビーな作品であるという点では一致するんじゃないかな。淡々と、じっくりと、リアルに、後戻りのできない病状悪化のプロセスと介護の描写を重ねていき、分かりあうことのできない周囲の人間との認識の隔絶をあぶりだす。すごい映画。できるだけ多くの人に勧めながら生きていこうと思う。いままであらゆる問題を突きつけてきたハネケ映画のなかで、答えを出すのが最も難しい作品だと思った。
R

R