さじ

愛、アムールのさじのネタバレレビュー・内容・結末

愛、アムール(2012年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

厳格で性格の頑固そうな夫が、半身不随の妻を自宅で献身的に介護する話。

介護の始まる退院日、夫から初めて聞く昔話に喜んだ妻が、「イメージを損ねない話ならもっと聞かせて」「厳しいけどとても優しいイメージを」と笑うシーンが、二人が長い連れ合いの中にもなかったくらい、心を通わせる最後の日々を想像させて最高に幸せ。

娘にも実情を分かって貰えず、日に日に進行する妻の老衰に、夫は耐えきれぬ想いを重ねただろう。
介護を続ける意志の根源は、病院に入れないという妻との約束や、逆の立場ならどうするかという倫理感ばかりではない。
それは、雇った訪問看護師の仕事ぶりや所作に眉をしかめる表情にもあらわれている。

惨めな自分や夫への負担感にか、言うことを聞かず水を飲まなくなった妻へ、夫が手をあげてしまい、夫が謝ったあと画面がブラックアウトして美しい絵画が次々に映される、というシーンで嗚咽して泣いた。
夫は、妻に「死んでもらうわけにはいかない」。それは、愛でも倫理でも社会責任でも救世主願望でも。
妻は、痛い痛いと叫んで夫を呼ぶけどどこが痛いとも表現できない。それで、夫が手を優しく握ってあげたり、昔話を聞かせると落ち着いてくる、というのがあまりにリアルで胸が裂けそうになった。

すごかった。ハネケ作品は4作目。やっと少し明るい気持ちになった。
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