MasaichiYaguchi

千年の愉楽のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

千年の愉楽(2011年製作の映画)
3.3
中上健次の原作短編集を映画化した若松考二監督の遺作。
物語は紀州のある小さい集落を舞台に、「中本の男の血」を受け継ぐ男たちの美しく儚い生きざまを、土着の神話を語るように展開していく。
本作品の語り部として、この集落の産婆・オリュウノオバが登場する。
彼女は、この集落唯一の産婆なので、この作品に登場する「高貴で汚れた血」を背負う三人の男たちを取り上げている。
そして彼女の夫である礼如は僧侶である。
つまり、この夫妻によって、この地の「生」と「死」が司られている。
「人は生まれ、そして死ぬ」
登場する三人の男、半蔵、三好、達男は、ある宿命を背負って生まれ、宿命に絡めとらわれまいともがき、そして生きようとするが、宿命は嘲笑うかのように彼らを手繰り寄せていく。
この三人の男を演じる俳優たちが魅力的だ。
特に半蔵を演じた高良健吾さん、三好を演じた高岡蒼佑さんは、美しくて儚い男の生きざまを、心の琴線に触れるように演じている。
そして、この男たちの「神話」の語り部を演じた寺島しのぶさんが「柱」となって、本作品を支えている。
人の生まれ持った宿命を、紀州の美しく豊穣な自然を背景に、「血」と「性」で描いた本作品は、如何にも中上健次と若松考二監督とのタッグ映画だと思う。
若松監督の新作がもう観れないのが、何とも残念でならない。
ご冥福をお祈りします。