タイレンジャー

偽りなき者のタイレンジャーのレビュー・感想・評価

偽りなき者(2012年製作の映画)
3.5
幼女の虚言によって、幼児性愛者の烙印を押され、大炎上、村八分、集団リンチの刑に処される無実の男の話には「ナニコレひっでぇな」と思うものの、個人的に興味を抱くポイントが抜けているために、物足りないな、と。

それは標的を見つけては集団で徹底的に叩きのめす民衆の心理と、そこに至る背景・要因ですね。

本作ではクララという幼女が想いを寄せたルーカス(バツイチ42歳)に恋文の受け取りをやんわり拒否されたことから、ちょっとした「仕返し」にルーカスによる性的虐待の話をでっち上げます。クララがルーカスを攻撃するのはフラれた腹いせなので、それは分かります。

でも、その他の人物たちがなぜそこまで問答無用にルーカスを血祭りにあげるのかの背景や要因が見えないので、そこかもう少し匂わせる程度でもあったほうがより深みがあったのではと思うのです。

例えば、幼稚園の園長(女性)がルーカスの言い分をほとんど聞かずに、クララの証言のみで事を進めてしまう展開があります。子どもを守る立場ゆえ、そうなるのは分かりますが、ちょっと慎重さが足りないな~。

例えば、もともと園長はルーカスに不信感を抱いていて・・・という前フリがあれば、この展開は分かりますが。

愛妻家で子煩悩なパパをアピールしていた芸能人が、不倫スキャンダルが報じられた途端に「今が叩き潰すチャンス!」とばかりに猛烈に袋叩きに遭うのもそうですが、集団リンチには「前フリ」というものがあったりします。それも、「愛妻家だと思っていたのに!」と反動が作用するパターンと、「やたら愛妻家アピールしていて怪しかった」と元から目を付けられていたパターンと様々です。

さらに酷いのは本人とは無関係な事象に対する民衆の不満の矛先が向いてしまうパターンですかね。スケープゴートです。こっちの方がより理不尽で、集団心理の醜さをまざまざと見せつけることになります。いわゆる「胸糞映画」にしたいのなら、このパターンを使わない手はありません。

このデンマークの片田舎には鬱屈とした不満が溜まっており、批判される側が民衆の目をそらすために「ルーカスは幼児愛者のクソ野郎だから排除すべし!」と流布する、なんて話だったら僕はもっと好みだったかなということです。

まぁ、それって「内政がマズくなったら、外に敵を作って、民衆の目をそちらに向けさせれば良い」というどっかの国がよくやる手法でもあるんですけどね。