原作は冷戦時代に書かれた児童向け小説であり、この映画はゼロ年代の高校生たちの恋愛を主題に置きながらも、原発事故の現実を容赦なく描いているという点で特筆すべきだと思う。これはドイツ映画であり、そしてドイツはかつてチェルノブイリ原発事故の際に放射能の恐怖を味わったという事実があるので、その描写に力が入っているのも頷ける。授業中に鳴るABC警報、自宅待機を命じるラジオ放送、我先に逃げ出す隣人たち、飼い犬を撃ち殺す飼い主。たまたま母親が不在だったために、主人公は小学生の弟とふたりだけで避難しようとする。パニック映画におけるパニック描写のリアリティというのは、その事象が現実に「起きる/起きない」だけではなく、例えば、「こういう極限状態で知らないこどもを助ける余力がおとなにあるのか?」とか「こどもがこどもなりに最善を尽くした先になにが待ち受けているのか」といったという点にもあると思う。弟を跳ねたあとも停まること無く立ち去ってしまった車や、ショックのあまりその亡骸を抱きしめたまま道路の真ん中で立ち往生する主人公に「早くどけよ!」と暴言を吐く後続車の運転手たちも、もしかしたら、そのリアリティの一部なのかもしれない。原発事故による汚染と、主人公が遭遇する避難中の悲劇、そのどちらも取り返しがつかないことではあるが、主人公はすくなくとも、映画の最後でその落とし前をつける。そこに希望があるし、この映画を観る手段が現状限られていることを、すごく残念に思う。