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チャイルドコール 呼声のEikeのレビュー・感想・評価

チャイルドコール 呼声(2011年製作の映画)
3.3
これは困った作品です...。
ストーリーについて書くと趣を削ぎかねない、しかし物語の展開そのものに重点がある作品なのでどうしても触れたくなります...。
作品解説には「人間の深層心理を鮮烈に描く、奇想に満ちた北欧サイコ・スリラー」とありますので、ある種の心理サスペンス映画であることを指摘するのは反則じゃないですよね?
本作のややこしさ(ユニークさ)はこの心理サスペンスに別の要素が織込まれている点にあります。

ノオミ・ラパス扮するヒロイン、アナの我が子に対する過剰なまでの保護意識と自宅のモニターが偶然拾った同じアパートのどこかで進行している児童虐待の痕跡。
ヒロインに押しかかる重圧が極限まで高まった時に彼女に何が起きたのか...。

本作の心理サスペンスとしての展開については賛否があると思われます。
アナが知り合うヘルゲ(Kristoffer Joner)の視点が盛り込まれることでそのネタはに関しては比較的早い段階で予想が付くかもしれません。
ただ、ラストまで観ると本作はその心理サスペンス面での意外なオチを見せつけるのが目的の作品になっていないのは明らか。

ヘルゲがアナの部屋で彼女の息子アンデシュの友人と出会い、その子からショッキングな言葉を聞かされた時点から本作は別の一面を見せ始めます。
このヘルゲ氏と今まさに死の床にある彼の母親との関係、それがアナと彼女の息子、そしてモニターから聞こえてくるどこかで虐げられている子供に投影されて行きます。
この別の要素が組込まれているのが本作の特徴であり、そのテーマがあるおかげで只の心理スリラーでは終わっていない訳でそこは意欲作として評価したいところ。
ヘルゲ氏による謎解きがもたらす結末はある種必然とも言える雰囲気もあって、陰鬱になりかねないラストにかすかな癒しと救済をもたらしている気がします。

ラパス嬢は熱演。
不安定で挙動にも精神の均衡が崩れつつある危うさが見てとれて見る側の不安をあおります(職歴の嘘を指摘された時の戸惑った表情がえぐい!)。
舞台となる北欧・ノルウェーはオスロ郊外の集合アパートの白っぽい風景、その内部の色味の冷たさも硬質な魅力を放っております。
この舞台設定と抑制のきいた演出もあって意外とすんなりと物語を受け入れることができました。
これがアメリカ式の派手な音楽やショック描写で描かれていたら多分白けてしまったと思います。
そう言う訳で地味な作品であるのは確かですが「異色の心理サスペンス+α」としてユニークな作品でした。
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