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世界が食べられなくなる日の消費者のレビュー・感想・評価

世界が食べられなくなる日(2012年製作の映画)
4.6
遺伝子組み換えによって作られ続けているGM作物と原爆や原発に代表される核エネルギーの利用を民衆に及ぼす健康や経済に及ぼす被害という共通点で繋いで問題を提起するドキュメンタリー作品

GM作物は有害な農薬と不可分であり人体は勿論のことあらゆる生物や自然環境への悪影響をもたらしている、という事実は既に広く知られており自分も知っていたし原子力の危険性も勿論承知していたが幅広い詳細を学ぶ事が出来て非常に有意義な作品だと感じた
貧困国を中心とした飢餓を減らせる、という様な嘘で塗り固められた大義名分を掲げている各国の政府やGM種子の生産や売買を行う多国籍企業の無責任さには憤りしか無い

第二次世界大戦時に原爆に利用されていた資金や人材を利用して遺伝子組み換えの研究に繋がるヒトゲノム解析が行われていた、という事も本作を見るまでは知らなかった

そしてそれを支配し世界中に害を振り撒く除草剤、ラウンドアップを製造販売している企業モンサントへの糾弾が作中ではかなり多く見られる
彼らの蛮行については陰謀論に関心のある人ならばよく聞く話だと思うのだが実際にGM作物やラウンドアップを用いる農家の人々が癌を患い多数の死亡者が出ているという事実が明確なソースと共に提示されていたのは非常に意味のある事だと思う
もはや陰謀論でも何でもなく現実なのだ、と
農家だけでなくGM作物の輸送に関わる港湾労働者にまで同様の害が及んでいるというのも盲点だった
マスクをしての労働でもそれが改善されないというのが凄まじいし作業中に発生するガスの量もとてつもない
農民には睾丸への汚染物質の蓄積により生殖機能を失った男性までいたのも衝撃的だった
一体、権力者達の目先の利益の為にどこまで被害が広がっていくのか…
人間だけでなく虫や動物にも害が及ぶ事で生命の多様性も失われてしまうという救いの無さには言葉が出ない

そして健康被害だけでなく政府やモンサントの様な業者と背後にいる金融グループ達の富の独占や搾取によって世界には独裁体制が生み出されているという事も見逃せない
GM種子には特許が与えられており農家は毎年、ライセンス料を回収されてしまうという事とGM作物と除草剤によって発生した癌が転移してしまうと治療が長引き医療費がかさむという事の為だ
あらゆる分野の問題がこうして繋がっていくのだから陰謀と言われても仕方ないだろう

本作の軸となる企業や政府と関わりを持たない人々によって運営されている組織、クリージェンと彼らによって生み出された刈り取り隊と呼ばれるGM作物を各地で潰している団体の存在はせめてもの救いだと言える
あまりにも馬鹿げた蛮行をラットを使った長期の動物実験で冷静に否定している彼らが実に頼もしかった

また本作の美点として製作国であるフランスだけでなく世界各地での取材映像がシームレスに流れるというのもある
世界中の誰もが自分事として捉え考え行動せねばならないのだ、という事がこれでもかと言う位に強烈に示され多くの人々のきっかけと立ち上がるきっかけとして十分過ぎた

ラストに流れる日本で原発への抗議の為に自殺した農家男性の妻の話は聞いていて思わず涙が溢れてきた
一般の個人に出来る事は限られているが少しでも役立てる事があるなら実行していきたいなと思う
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