tak

愛のあしあとのtakのレビュー・感想・評価

愛のあしあと(2011年製作の映画)
3.0
WOWOWの番組「W座からの招待」が、日本未公開作を地方のミニシアターで無料上映する企画「旅するW座」。北九州で開催されたので金曜日の夜、行ってきた。

ひとくちに言ってしまえば、主人公マドレーヌとその娘ヴェラの親子二代に渡る愛と性をめぐる物語。

映画はフランス・ギャル?あたりのポップスとともに軽やかに始まる。靴屋の店員をしていた主人公マドレーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)はこっそり売春のアルバイトを始める。彼女が壁にもたれて立っている素敵な構図。それはジャン・リュック・ゴダールの「女と男のいる舗道」を思わせる。髪型もアンナ・カリーナを思わせるじゃない。やがて彼女は客として知り合ったチェコ出身の医師ヤミロフと愛し合うようになる。結婚して一時はプラハに住んだが、ソ連軍の介入、夫の浮気から子供を連れてパリに戻ってくることになる。マドレーヌはその後再婚したが、ヤミロフとの関係は続いた。再び一緒に暮らすことを口にするヤミロフに、彼女は再び体を重ねてしまう。しかし残される二人。ここまでの前半は、奔放なマドレーヌの印象から軽い映画の印象を受けたが最後はやや重い幕切れで前半が終わる。

後半はキャストが変わり、美しく成長した娘ヴェラ(キアラ・マストロヤンニ)と母親(カトリーヌ・ドヌーヴ)。ヴェラが旅行先のロンドンのクラブで踊る場面から始まる。彼女はそこでドラムを演奏していた男性(ポール・シュナイダー)に心惹かれる。彼の家で楽しく過ごした後、彼にゲイだと告げられ、ショックを受ける。しかしお互い近づきたい気持ちは変わらず、ヴェラはつきあっていた彼氏のいる前で彼と抱き合う。その後も彼を忘れられないヴェラ。一方で母マドレーヌとヤミロフとの関係は、年をとった今でも続いていた。突然家に押しかけて現在の夫にマドレーヌと別れろと迫ったり、マドレーヌとパリで密会をしたり。ところがヤミロフはふとした事故が原因で亡くなってしまう。そして、ヴェラはゲイの彼の子供を産みたいと告白するが・・・。

ところどころミュージカル仕立てとなる演出が出てくるが、これは工夫だなと思った。「恋するシャンソン」の例もあるけれど、あれは既製曲の歌詞を台詞としてあてはめた面白さだった。本作では登場人物それぞれの心情を歌詞にのせて表現している。台詞では過剰な感情表現になったり、逆に台詞なしで観客に想像させ行間を読ませたりするのとは違って、観ている側には伝わりやすい(セザール賞では音楽賞にノミネートされている)。この歌があるから、登場人物たちの心情や考え方を銀幕のこちら側で受け止めてあげられたのだと思うのだ。決して楽しい映画ではないけれど、"愛することのどうしようもなさ"を感じることができる2時間。

愛することは甘いチョコレートの味わい。だけど、その裏側にはビターな味が隠れている。そのビターを感じさせてくれるのは、人間を見つめるフランス映画の懐の深さなんだろう。
tak

tak