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ビフォア・ミッドナイトのDieGeschwindiのレビュー・感想・評価

ビフォア・ミッドナイト(2013年製作の映画)
5.0
突き詰めれば「主人公の男女の会話だけ」の映画。でも、この魅力を人に語らずにはいられない。

経験則から言える。この映画が好きな人とは話しが合うということ。列車の中で出会ったアメリカ人ジェシーとフランス人セリーヌ。ウィーンの街を歩きながら“夜明け”までの時間を過ごした『ビフォア・サンライズ』。それから9年後、ジェシーはウィーンでの一夜を小説に綴り、作家として訪れたパリの書店でセリーヌと再会する。二人が過ごした“夕暮れ”までを描いた『ビフォア・サンセット』。そして、また9年後、最終章のギリシアを舞台にした、“真夜中”までの『ビフォア・ミッドナイト』。

ブダペスト=パリ間を走る国際列車で出逢った二人が途中駅ウィーンで降車して、夜明けまで街をあてどなく歩く。その二人の会話が良い。まるで舞台劇を見るように会話のみで成り立っていて、出逢ったばかりの二人が醸し出す、親密で濃厚で、それでいてとても自然な雰囲気が最高に魅力的。山場も特にないけれど、心の奥深くにジーンときて、情熱を揺さぶられる映画であることは間違いない。二人の会話にドキドキしちゃう。

恥ずかしいのを承知で告白すれば、ヨーロッパで国際列車に乗る度にセリーヌを探していた。意味もなく(!)食堂車でコーヒーも飲んだ。もちろん、そこには気が強くも美しいフランス人女性は乗っていなかったし(笑)、もし仮に乗っていたとしても何も起こらなかっただろうと思う(苦笑)。

出会い、恋の萌芽、そして、甘さだけではない二人のリアルな関係。恋に落ちるのは簡単。でも、その先、深く関わり合う関係は困難を伴う。でも、だからこそ、人生を賭して求めていく価値あると語りかけてくる。三部作の終わりに相応しい『ビフォア・ミッドナイト』はいわゆるロマンティックな物語ではないが、ある意味でもっともロマンティックなものに仕上がっている。映画が公開され計18年間をこの主人公の二人とともに年を取り、相手を想う覚悟と愛の深さが美しいと感じられるようになった。瑞々しさよりも円熟というものに価値を見出せるようになってきた。

人生は、夜明けや夕暮れのように現れては消え去っていくようなもの。
愛は真夜中の闇の中へ、だけど、必ず日はまた昇る。