ククレ

くちづけのククレのレビュー・感想・評価

くちづけ(2013年製作の映画)
2.0
(以下は公開当時にYahooにレビューした文章です。今あえて転載します)

私は知的障がい者のグループホームを運営している社会福祉法人の職員です。この作品、あまりにも「知的障がい者の地域生活」の現場の実情からかけ離れているように感じました。あり得ない点が多すぎて、観ながら終始イライラしていました。福祉関係者や障がい者ご本人、ご家族がご覧になるには、かなり覚悟が必要です。
いくつか「納得できない点」を挙げます。
以下ネタバレ



・グループホームの運営ですが、利用者の「障がい年金」だけで運営しているという設定はまずあり得ません。ボランティアだけで運営するなんて無責任極まりないです。
・「近所の家に勝手に入ってカレーを食べていた」って…不法侵入です。これを放置していたら、地域で生活できなくなりますよ。ホームの職員は、こういったことが起こらないように支援の計画を立てて実行しています。ましてや女子高生の胸を触るなんて…。巡査がしょっちゅう出入りするホームって…よく存続できますね…。
・利用者の頭を叩いてはいけません。勤務中に酒飲んでるスタッフなんて…辞めてもらいます。
・男性恐怖症のマコちゃんが「障がい者の男性は怖がらない」って。おかしいですよ。
・なにより、「うーやんを引き取ったともちゃん」や「マコを生涯面倒みると決めたいっぽん」は美談ではないと思います。いわゆる「共依存」という状況に陥っていると考えます。彼らが抱え込まなくていいように、法制度は整備されていますし、私たち福祉職員が日々奮闘していることを知っていてほしいです。「娘を殺してしまう」なんて「愛情」とは思えません。

他にも数々の?がありますが、ドキュメントではないので一種の「ファンタジー」として観ていました。

元は演劇だったということで、セット中心の映画ですが、もっと外が観たかった。「彼らがどのように地域で生活しているのか」ということを描いて欲しかったなぁ。ホーム以外にも、うーやんやマコちゃんの職場も観たかった。「入所施設」ではなく「グループホーム」なんだから…。
今の「知的障がい者のグループホーム」が、みんなこの映画のような状況とは思われたくありません。誤解しないでいて欲しいです。しかし、今まであまりスポットライトが当たらなかったので、これを機に多くの人が障がい者福祉に興味を持ってくれたらいいな、と思います!


これらは2013年に書いた文章ですが、やまゆり園の裁判が始まった今、この映画から伝わる「メッセージ」がさらに恐ろしく感じてます。障がい者は「未来がない人」「生きる価値がない人」ではないです。殺してはいけません。植松容疑者のような考えが広がらないことを、今こそ切に願います。
ククレ

ククレ