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オブリビオンの3110133のレビュー・感想・評価

オブリビオン(2013年製作の映画)
2.5
主題が後退し、娯楽化する。映像はきれい。

公開当時映画館で観て、それなりに記憶に残っていたのでamazon primeで再見。
清潔感がある未来像の映像はスタイリッシュでかっこいい。それが偽りの清潔さであることが露呈して行く様はなかなかよいと思う。

個人性は“世界に一つだけの”的な安直なものではなく、シンギュラーとして獲得していくものである。そしてその獲得の過程には、単なる体験の積み重ねだけではなく、“本を読む”ということによるイマジネーションとそれによる行動の逸脱が不可欠であることが描かれる。
個性化において「記憶」が不可欠であることは(他の作品においても往々にして)語られるが、それが断片であり、かつ自分だけのものではない本劇において、(生得的なシンギュラリティが見込めない以上)自身のイマジネーションを含んだ判断と行為、その経験が個性化を促していく。

であるとして、“本を読むこと”による行為の逸脱が、彼を“彼”(シンギュラーとしての)にするために必要なものとして劇中で言及されているわりに、本が象徴的に(あるいはとても浅く)しか取り扱われていないのは不満が残る。

ラストシーンは嘆息もの。あの個性化の過程はなんだったんだと。
どうとらえてみても、残念ながら最後の彼の屈託ない笑顔を擁護できない。
ラストのポエムも、あの程度の詩しか読めないような読書体験しかしていなかったのかと失笑。(ブレードランナーのロイの「雨の中の涙モノローグ」とは雲泥の差。)

いや、そうではなくラストに彼は再び彼女と出会い、新たに個性化の過程を歩んでいくのだ、としたらどうかとも考えてはみたけれど、それはきっと深読み。世界中の“彼ら”がみんな彼女へと集まって、修羅場に発展!自己の存続をかけた闘いが!って、それはそれで面白いかもしれないけれど。既にひとつの生きた証は残しちゃってるしな〜。


信じ込み、自身の行動規範となっていたものが全て偽りであるということの恐怖。それ(既定の現実)を疑うことのない愚かさや、疑う余地がないように完成されたアーキテクチャの恐ろしさは、管理社会やそれに甘んじる市民への批判として充分描かれているだろうが、その現実が転覆されたあとの、より真実らしく思われる現実を主人公は無邪気に信じすぎではないか?
世界はいつであっても確かめようもないことばかりで、真実らしさに賭けて措定するしかないにしても。

そこらへんの主題をもし本当に描き出したければ、やりようはあっただろうと思うが、主題は後退し、全編を通じてハラハラドキドキサスペンスが全面に押し出され、つっこみどころ満載の御都合主義娯楽映画に仕上がっている。
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