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5月の後のakrutmのレビュー・感想・評価

5月の後(2012年製作の映画)
3.9
五月革命直後の1971年のパリ郊外を舞台に、破壊的な学生運動に積極的に関わりながらも絵や映画などの芸術にも熱中する高校生ジルや仲間たちを描くことで、当時の若者文化や時代の雰囲気を印象的に表現した、オリヴィエ・アサイヤス監督の青春映画。ちょうどこの頃に主人公と同じ年代だったオリヴィエ・アサイヤス監督の経験も反映された半自伝的な作品でもある。

作中で大きな出来事は起こらず、前半の熱気を帯びた学生運動のシーンもある事件を境に影を潜め、高校生たちは政治的活動からは距離を置いてそれぞれの道を歩んでいく様子が淡々と描かれていく。ジルの恋人だったロールはイギリスに行ってしまい、ヒッピー文化に染まっていく。その後に恋人となった学生運動の仲間クリスティーンとも、彼女が逃亡先のイタリアで知り合った映画監督グループと行動を共にするために、別れてしまう。そんなある意味でとても冷めた関係性を描きながら、当時の学生が抱いていたであろう純粋な理想への追求心や孤独、将来への漠然とした不安、そしてそんな時代を包んでいた匂いなどを上手く表現していて、好感が持てる素敵な映画だった。

そんな複雑な心情を見事に表現していた主人公のジル役クレモン・メタイエがグッド。本映画がデビュー作であるのには驚く。一方、クリスティーンを演じたローラ・クレトンは小さい頃から十分に演技経験を持つ女優である。幼さと刺すような鋭い目つきの同居している表情がとても印象的。

ちなみに、原題を直訳してつけた『5月の後』という邦題は、本当にこれでいいと思ってつけたのだろうか?フランスで「5月(Mai)」と言えば1968年の五月革命を指すことはフランス人ならばわかるであろうが、これが日本でどのくらい通じるのであろうか。またしても安易すぎる邦題に閉口するばかりである。
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