老人XY

ぼっちゃんの老人XYのレビュー・感想・評価

ぼっちゃん(2012年製作の映画)
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「利己的な暴力より、ほんの何気ない優しさが欲しい」


松田優作が探偵物語の中で放った台詞である。
ほんの何気ない優しさ。
さりげなさすぎて気付かないような、でもあとから思い返すと、愛おしくて仕方なくなるような。失ってから気付く、アレですね。
今作で言うと「ここの食堂のカレー、美味しいんだよ」になるだろうか。
田中はホントに良い奴だ。俺みたいなクズ視点からみるとちょっと人間離れしてるレベル。大人になればなるほど、喫茶店であんな風にぶつかってくれる人はまぁいない。色違いのポケモン並にレア。
主人公は卑屈になりまくったルサンチマンのプライド妖怪。
ホントくそみてぇな奴だけど、DQNから田中を逃がす為に立ち塞がるも腹パン一発で崩れ落ちる場面では輝いてた。

最後の車中での絶叫。あれはある意味希望でもある。主人公はその鬱屈して腐敗したドロドロの感情を、そのまま叫べば良かった。要するに「歌えば」良かったんじゃないかと僕は提案したい。カラオケでMUCCやらSadieやら叫び倒すのサイコーだぜおい!下手でもヒトカラなら関係なし!!!
彼の好きな歌はなんだろう?
彼の好きな映画はなんだろう?
好きなマンガは?アニメは?本は?
この時代、ネットがある。
好きなものを好きだと叫べるツールがある。
ネットだって何も悪意だけで覆われてはいない。
現実だろうがネットだろうが他人と近付いたら摩擦が起きて傷付け合いになるのが当然さ。何かが伝わって嬉しくなったり喜んだりする方が奇跡的だよ。ほんの何気ない何かだよ

あるホラー小説家が「人の悩みなんざ10億ポンと渡せばたいてい解決するよ。あとマリファナ解禁だな」と言っていた。この主人公ならどうするだろう。田中ならどうするだろう。
俺ならジョーカーみたいに札束に火を着けたいけど、実際だと10億燃やすのは最高だぜヒーハーとウソぶきながら後ろ手にフリーターの生涯賃金分くらいは尻ポケットに突っ込んでしまうんだろうか。

あと1つ言いたいのは、これ観て工場ってこんな感じなのね、あーあワープアってヤダヤダみたいな固定観念を持ったとしたら、なんというかそれはもったいない。もっと優しい所でもあるし、もっと怖い所でもある。どちらにせよもっと豊かな所だ。「8Mile」のバスで通勤しながらリリック書き貯めるエミネムに憧れて工場でバイトしてた俺が言うんだ!間違いないぜ!
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