映画漬廃人伊波興一

グランド・マスターの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

グランド・マスター(2013年製作の映画)
2.5
実在した葉問(イップマン)と時勢に翻弄された拳士たちの姿。
ですがこの作品に(画面)が存在するとは思えません。
ウォン・カーウィー
『グランド・マスター』
21世紀の映画でここまでアップが濫用された映画も珍しい。この作家には映画作りにとても大切な(自粛)という資質は備わってないのか。
ある意味凄い。
爛熟な妓楼の室内風景は、「フラワー・オブ・シャンハイ」(候考賢)の万華鏡の華が開くようなたおやかな眩暈など一度も知覚させず、閉ざされた空間内での華麗な武術のお披露目も「The Witch 魔女」(パク・フンジュ)や、我らがジャッキー、サモハン、ユンピョウ三羽烏に遠く及びません。
せめて戦争ロマンスとして見納めたい、と自分に言い聞かせましたが、すっかり涙腺が緩くなった還暦近い男にも(声だけのラジオドラマの方がよほど情感に訴えてくるんじゃないか)と思わせる薄っぺらぶり。
延々と詠春拳に関する中国武術のペダントリーが長広舌に展開され、オマージュのつもりか「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を思わせるラストから挙句にはブルース・リーの惹句を引用する安易ぶり。
本人がこれで新時代の活劇を描写しているつもりであることは、幸福なのか不幸なのか、ウォンご本人にとって幸福であったとしても、胡金銓(キンフー)以来培われてきた武術映画にとって不幸なのは間違いない、とまで云うと前世紀末、新スタイルでタランティーノまで熱狂させたアジア映画の星に対して言い過ぎでしょうか。