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まぼろしの市街戦のTnTのネタバレレビュー・内容・結末

まぼろしの市街戦(1967年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 こんな戦争批判寓意映画があったとは!しかもほぼ無血だ(人は死ぬけど)。そしてユーモアもある。
戦争を知らない精神病の人に主人公は言う。

「君を殺そうとする人が攻めてくる!」
「私は無害な人よ?」
「…関係ない」

この一連の流れにハッとさせられる。つまり、どっちが本当に頭がおかしいのか。兵隊同士が撃ち合いで相打ちになって全滅するシーンは、アホすぎて一瞬笑えたが、戦争の本質そのものでゾッとさせられた。

 伝書鳩係の兵隊っているの…?第二次世界大戦でキルト衣装…?そんなギャグやウィットな笑いが全編を占める中、展開される"偽りの街"。それは精神病院から解放された人々が空っぽの街で各々服を着替えてその人を演じだすことだった。彼らの作り出すあっけらかんとした生き様に持ち上げられる伝書鳩係の主人公プランピック、それも王様扱い。経済とか社会制度とか体裁とか皆無だから長く続くわけじゃないのはわかるが(爆弾が埋まってるというのが一番の原因だけどね…笑)、なんて幸せな街なんだろうと思った(関係ないが、山本政志監督がこうした一時的な桃源郷を求め続けた作風だったなぁ)。精神病と一括りだった彼らはお互いを定義したりしない。自分のなりたいものになるだけだ。こんな簡単な願望は社会のはみ出し者なわけである。考えれば、戦争の名の元で人間を兵隊という捨て駒に画一化してしまう行為は、精神病と括って病院に入れることと同義なのかもしれない。だんだん彼らに愛情が湧いて奮闘するプランピックの姿も優しさ溢れてるというか。

 ちなみに、あらゆる職種の人々が街路に溢れかえるシーンは、バルテュスの「街路」の絵を想起させる。この絵の持つシュールさには、”皆が何かを演じてるかのような”違和感があったのかもしれない。

 戦いは終わり、元の市政の人々が戻ってくると、精神病者たちはその着飾っていた服を捨て、自ら病棟へと向かう、この悲壮感ったらない。「田園に死す」でラスト消えてった者たちのような。しかし、プランピックは彼らの仲間入りを果たす(「生まれたままの姿で〜♪」ーシャネルズ「街角トワイライト」より)。笑えるし、彼らとの絆のために一枚脱いだわけだ笑。

 その病棟の中、ラスト、窓際に立つ患者が放った「一番美しいのは窓から出る旅」という意味深な台詞。どういう意味だったのだろう。空想することを意味するのか、自分たちが世界へ出ることをやはり望んでいるかのような、名残惜しい含みもある(少なくとも病院内が安寧の地というわけではないのだ)。その後「カッコーの巣の上で」では、まるでその望みに返答するかのように、精神病院の窓は破られることになるのだった。
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