不在

まぼろしの市街戦の不在のレビュー・感想・評価

まぼろしの市街戦(1967年製作の映画)
4.6
この映画を見ているとなにが正常で、なにがそうでないか分からなくなってくる。
軍人たちはまるでピエロのようだ。
明確な目的を伴って任務にあたっているはずの主人公も、寝言のような命令に命をかける間抜けに見えてくる。
ここは真面目な奴ほど馬鹿になる、さかしまの世界だ。
そんな世界では、悲劇も喜劇になる。
病や死、戦争、そして人生。
すべてが演劇であり、サーカスなのだ。

ここで道化を演じるのは、大真面目に戦争に興じる軍人だけではない。
精神病院から逃げ出した患者たちもまた、ピエロのように振る舞っている。
そして全てが逆さまの世界で彼らだけがこれがサーカスであることを理解しており、演じている自覚があるからこそ、それをやめることもできる。
そんな患者の内の一人は外の世界を見て、窓から出かける旅が最も美しいと語る。
役を演じている自覚のない人間たちが織りなす舞台を客席から傍観し、嘲笑うことこそが本当の喜劇であると言いたいのだろう。
そして主人公も檻の中でハートのキングになることを選び、ジョーカーたちに囲まれて自分らしく生きていくのだった。
不在

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