よしまる

ホーリー・モーターズのよしまるのレビュー・感想・評価

ホーリー・モーターズ(2012年製作の映画)
4.0
 「アネット」観たい〜、という予習を兼ねて、こちらも初鑑賞。カラックス監督作は、中坊の頃にお友達のKくんに散々ススメられてアレックス3部作のみ経験済み。
(フィルマでは1作目のみレビュー済み)

 でもそれ以降の作品は観たことがなかった。

 この作品は彼が映画というものに真正面から向き合ってその歴史を辿るかのように夢のような物語を映画撮影になぞらえて作った大人のお伽噺。カラックスをよく知る人はもちろん、知らない人でも楽しめる愉快痛快怪物くんな映画だ。

 最初にカラックス監督本人が登場するので、これが監督の迷い込んだ異世界、もしくは見ている夢、みたいな解釈をしていいんだよ、という親切設計になっている。

 そこからはアレックス3部作を演じたドニラヴァンによる独演場。次々とメイクを変え、それぞれの映画に挑む姿にワクワクが止まらない。その数なんと11人(と書いてあった)。特殊メイクも凄いし演技の使い分けも凄い、そしてなお身体能力の高さに驚くw

 Tokyo!を観ていないので、メルドという怪物はわからなかったけれど、シチュエーションコメディ(?)としてはすごく面白かった。ゴジラのテーマは、使わんでくれとまでは思わなかったけれど、あんまり合ってるようには感じなかった。あの怪物に巨大感、畏怖感みたいなものはなかったからね。伊福部よりむしろ渡辺宙明あたりの軽いアクションテーマのほうが良かったのでは(巨匠にお節介)。

 ポンヌフネタはエェ!ってなった。これビノシュだったら最高なんだけれど、そうじゃないところが余計に監督のつのる想いが感じられて逆に切なくなった。もちろんカイリーミノーグに罪はない。もう結構なお歳なはずなのにスッチー姿は似合ってた。(いまは死語だけれどあえてノスタルジックにw)

 それにしても、たださまざまな映画体験を楽しませてくれるだけでありがたいのに、そこにちゃんと人の営み、人生の在り方を考えさせる余白を与えてくれているのが素敵だ。

 ラストを書くとネタバレになっちゃうので言い表しにくいのだけれど、運転手のセリーヌが取った行動、車庫へと戻ってきたリムジンたちが語る(?)人生観が、ちゃんと一つの答えを示唆している。

 フィルマでさえ、裸になってすべてを曝け出して書いている人は稀だろう。人はいつメイクを落とし、ヅラを脱ぎ、本当の自分と向き合うことができるのか。
 役を演じてこそ見えるものがある一方で、裸になっても見えないものがある。
 そんな、人間の不確かな生き様を、大好きな映画になぞらえて、時に楽しく、美しく、おぞましく、また時には切なく描ける稀有な監督が、やっぱり大好きなのだった。