ユカートマン

ホーリー・モーターズのユカートマンのレビュー・感想・評価

ホーリー・モーターズ(2012年製作の映画)
4.3
メルドや橋の上のホームレス、テロリストに加わるシーンなどからわかるようにこの映画はカラックスのフィルモグラフィー的でもあり、カラックス本人が冒頭に登場したり自殺した(?)奥さんを仄めかせるシーンがあったり監督自身の自叙伝的な要素をも孕んだり内省的でもある。アカデミー賞を思わせるオスカーという役名も、俳優の暗喩だけではなくカラックスの本名の一部。カラックスらしく抽象度が高くて最初は難しかったが、観ているうちにカラックスの言わんとしているところがわかるようになる。人は演じている。一人の女性も誰かの娘であり妻であり母親である。それを見事に演じ分けている。そしてそれを演じ分けさせるのは誰かの眼ということだ。パーティでウォールフラワーになってしまった娘(カラックスの本当の娘らしい)に言い放つ「お前の罪は、お前がお前として生きることだ」というセリフにこの映画の本質が詰まっているような気がした。このシーン、オスカーが演じてるのか演じてないのか曖昧かつモテない人間に響く言葉がたくさんあって一番好き。カイリーミノーグが出てくるシーンはジュリエットビノシュが演じるはずだったが断られたとのこと。もしポンヌフの恋人を演じたビノシュたんだったら"20年間"の意味がもっと分かりやすかっただろう。オマージュに富んでいるので元ネタを探すのも楽しいかも。この作品で過去の始末をつけたのだから、寡作という汚名を返上して素敵な作品をもっとたくさん世に送り出してほしいというのが世界中のカラックスファンの切実なる願いである。
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