櫻イミト

3階の見知らぬ男の櫻イミトのレビュー・感想・評価

3階の見知らぬ男(1940年製作の映画)
3.5
「M」(1931)で有名な怪優ピーター・ローレ出演作。「マルタの鷹」(1941)に先んじた最初のフィルム・ノワールとも言われる一本。撮影は後にRKOリュートン・ホラーを牽引するニコラス・ムスラカ。

ある殺人事件を偶然目撃したマイケルは裁判で証言する。しかし証拠の曖昧な容疑者に死罪判決が出たことにショックを受け思い悩みながらアパートに帰る。すると隣人の部屋から見知らぬ男(ピーター・ローレ)が逃げるように出ていくのを見かけ、不可解な気分で横になるが悪夢にうなされ。。。

物語展開の順番に難を感じるが、陰影を活かした実験的な映像は注目に値する。特に中盤の悪夢パート約8分間はドイツ表現主義的な斬新な映像が繰り広げられる。本作の撮影がフィルム・ノワール映像の方向性を決定づけたという批評にも充分納得できる印象深い画づくりだった。

ボリス・イングスター監督はロシア出身でエイゼンシュタインン監督のスタッフだった人物。彼と撮影監督ニコラス・ムスラカは画コンテをもとにミニチュアのセットを作成し、照明とカメラアングルを入念に検討して撮影に臨んだとのこと。

途中まで主人公が極度の心配性に見えてしまうシナリオは惜しいところだが、映画史的に重要作であり映像を観るだけでも価値ある一本。
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