るるびっち

ちょっとフランス風のるるびっちのレビュー・感想・評価

ちょっとフランス風(1949年製作の映画)
3.6
ダグラス・サークはメロドラマのイメージが強いが、こうしたスクリューボール・コメディ(変人喜劇)も撮るんだなぁ。
けれども女性キャラの心情描写に傾くので、やはりメロドラマ的だ。

冒頭、映画撮影のシーンから始まる。
完璧主義が原因で主演女優と揉めて干された映画監督を、『コクーン』のお爺ちゃんドン・アメチーが演じる。この時は若いしイケメン。
作品完成のため新人女優の発掘と同時に、彼女を使ってプロデューサーを納得させる策略に出る。
目的のため、都合よく女性を扱うエゴイストだ。

ベテラン女優も音を上げるエゴイストの完璧主義者。
彼のシゴキに耐えるドロシー・ラムーア演じる新人女優。実は彼が好きなのだ。
前半は『マイ・フェア・レディ(ピグマリオン)』に似た展開。

後半は映画制作と監督への返り咲きのために、プロデューサー相手に色仕掛けを女優に指示。
自己中過ぎる振る舞いだが、女優も勝ち気でサバサバしているので余り哀れ感はない。
自分で色仕掛けを指示しておきながら、プロデューサーと女優が昵懇になることに嫉妬する監督。
コメディとしての担保は取れている。

蓮實重彦教授がスクリューボールにおける厳格なルールとして、三角関係で振られる恋敵は、喚かず騒がず乱心せずに潔く引き下がらなければならない。と、いうような趣旨を書いていた気がする。
そうでなければハッピーエンドにならない。
本作でも利用されたプロデューサーは被害者なのだが、潔く引き下がる。
乱心して自殺などしたら、残された2人は一生傷を負うだろう。当然、恋も上手くいくまい。
それだと悲劇になるし、文学的だ。
夏目漱石の『こころ』になってしまう。
つまり、コメディの恋敵は文学の人物より心が強い。
厳しい現実を受け止め、尚且相手を祝福する技量があるのだ。
そう考えると、よっぽど主人公たちより人格者だ。
何しろ、主人公は自己実現のために他人を利用するクズ野郎なのだ。

冒頭のシーンに合わせるように終わるラストカット。
最後に映るのは、カメラの前で微笑むプロデューサー。
その姿は、この話の真の監督は彼であるかのようだ。
主役カップルの未来をコントロールできるのは、実は振られ役なのだ。
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