勝沼悠

セデック・バレ 第一部 太陽旗の勝沼悠のレビュー・感想・評価

5.0
 日本統治下の台湾で起こった原住民セデック族の反乱、霧社事件を映画化(レビューは前後編まとめて)。

 おそらく日本軍を敵とした映画でこれほどまでに日本軍を一方的な悪として描かなかった映画はなかっただろう。首狩りをするセデック族の方が明らかに残虐な行為として描かれていることの重み。
 よく聞かれる文明化でよかったこともあったとか、いい日本人もいただとか、反乱という争いに泣き戸惑う女達とか、あらゆる要素を何重にも組み込んで重厚なドラマが展開していく。
 
 何よりすごいのは主演のモーナ頭目を演じているのは俳優でもなんでもないタイヤル族の部落の長の人なのだ。この頭目の顔力がとにかくすごい。台湾政府の統治になってからも1980年まで原住民の同化政策は続いていて、その中を生きてきた凄みが彼から感じられる。
 映画の全編に渡って彼らの歌や踊りが流れる。エンディングロールまでしっかり見た映画は久しぶりだ。
 部族の歌や踊り、教えを語り継ぎ、世界中に伝えたこの映画は80年の時を経て掴んだ彼らの勝利なのだと思う。

 私達は他者の誇りを奪ってはいけないのだ。それを強く感じた。
 これは先の戦争での他の国に対してのことでも本質だと思うし、日本人同士でも沖縄や福島のことを考える上でも重要なことだと思う。

 魂が震える名作。
 全ての日本人に見て欲しい。
勝沼悠

勝沼悠