すず

欲望のバージニアのすずのレビュー・感想・評価

欲望のバージニア(2012年製作の映画)
4.5
1920年の施行から1933年に廃止される禁酒法の末期、1931年バージニア州フランクリン郡。腐敗の温床。無法地帯。

禁酒法時代のアメリカで、密造酒を製造して売りさばくビジネスを生業にするボンデュラント一家。決定的な死線をことごとく生き延びて、「俺たち兄弟は絶対に死なない」という確たる自負に、不死身の異名を轟かせる兄弟 長兄ハワード(ジェイソン•クラーク)と一家の舵を取る次兄フォレスト(トム•ハーディ)の2人、そして今ひとつ頼りなくて危なっかしい末子のジャック(シャイア•ラブーフ)をメインに据えて物語は進む。

実在したボンデュラント3兄弟の子孫が記した小説を基に描かれた作品。

キャストは全員主役級の豪華なくせ者揃いで、『プロポジション』でもみせた、ジョン•ヒルコートとニック•ケイヴの凶暴なタッグ。期待を裏切らないどころか、それを上回るような渾身の一作だった。脚本をやったニック•ケイヴは、相方のウォーレン•エリスとスコアも担当していて、劇中を熱く盛り上げている。(このバッド•シーズのコンビは結構色んな映画のスコアをやっています。)

ジョン•ヒルコートお得意の 残虐 グロテスク のオンパレードで、かなり粗暴な描写が多いんだけど、今作が世に言うギャング•ストーリーと趣きを画するのは、彼らはギャングではない普通の一生活者(一般人という表現が適切かどうかは分からないので)たちであるということ。それが禁酒法下で、生活に喘ぐ者たちがのし上がる手段として密造酒製造をやり、そこに付随するように取締局をはじめ、同業者やギャングや汚職公職官たちとのやり合いがあり、そんな無法地帯のルールとして、攻守兼ね備えた暴力が必要だったということ。生ぬるい感情など、一切、通用しない場所で。

そういった意味で、これは人類史における綺麗事なき時代の人間のリアルを描いたヒューマン•ドラマなのである。

本作で示されたものは、むやみやたらに暴力を誇示するような野蛮性ではなくて、タフな漢たちが命をかけて貫かなければならぬ信念、家族という守るべきものの為に戦うこと、変えようのない世界で与えられた人生を生き抜く為に、他の選択肢もないような不遇な境遇のもと、自発的な志を持つ者の世界線として、そこに暴力と残虐が描かれている。

恐怖を制して、戦わなければ、立ち向かわなければ、存在を誇示しなければ、殺らなければ、ただあっけなく殺られて死ぬだけなのだ。それで全部がおしまい。

そこには屈強で逞しい人間の生き様と美学がみえる。もちろん犯罪行為自体は美化されるものではないが。

「無法者?違うよ。考え方の問題さ。志がある者なら、みんな同じことをするさ」とジャックは恋人に言う。のちに悪名高き失策とされる禁酒法時代の渦中は、そういう世界だったのであろう。

エンディングも含めて、個人的に琴線に触れる、思い入れを感じ得る作品だった。


※街を牛耳るギャングのボスのフロイド•バナー(ゲイリー•オールドマン)が咥え葉巻にトミーガンを抱えて、敵の車ごと蜂の巣にぶち抜いて、居合わせたジャックと目が合うと小さくウィンクして去って行くところ。かっこ良すぎて笑った。ゲイリー、かっこ良すぎて笑った。笑

フランクリンに派遣された特別補佐官レイクス(ガイ•ピアース)は、賄賂の要求に虐待と、まさに極悪非道で、仇役として申し分ない悪の存在感としなやかさ。ボンデュラントへの肩入れと没入感を刺激するような、ガイ•ピアースの豪華な使い方だった。やはり敵がいいと物語も画も映える。

ボンデュラント兄弟では、ハワードの鬼人ぶりも捨てがたいけど、やっぱりトム•ハーディーのフォレストが一番かっこ良い。屈強さに、彼なりの信念と美学、無骨で寡黙、そして意外に奥手で、愛する人にジェントルな姿もまたかっこ良い。

ずっと探してたのになかなか辿り着けなくて、まさか、ここにきてひっそりとアマプラに入ってた笑。ありがとう、アマプラ。
すず

すず