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プライズ〜秘密と嘘がくれたもの〜のtheocatsのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

ネタバレ
軍事政権中南米国におけるある母娘の悲哀劇

あらすじにはアルゼンチンが舞台とあったが、視聴後に調べたらメキシコ他ヨーロッパ諸国合作とのこと。

狂風吹きすさぶ酷く侘しい砂浜のほとり、コンクリート造りの家とも言い難い粗末な建物に若いお母さんと幼女が愛嬌のある黒犬と共に住まう。
何かから逃れるような、或いは誰かからの吉報をラジオで待ちわびるかのようなお母さん。
子供は無邪気に砂浜で犬と共に遊ぶ毎日。

そのうち女の子は学校に通い始め、友達もでき、その子とも砂浜で遊び始める。もちろん犬と共に。←素晴らしく愛嬌があってしつけも行き届いている、子供たちにとっては理想的な可愛いコンパニオンアニマル!笑

女の子のカンニングほう助事件などもありつつ、親子にとってもっと重大な局面が訪れる。
それは軍主催の作文コンテストで「親戚が殺された」と書き綴ってしまったこと。

血相を変えて先生の元に駆け込み文面の書き換えを懇願する母親。
それらの流れから親戚や夫が軍事政権により思想犯あるいは政治犯として拘留されたか殺されたことが推察される・・・


ストーリー自体は悲哀が充満し過ぎていて、コンクリートバラック住まいという環境も相まってこちらも物悲しくなってくる。
しかし、ラテン系芦田愛菜といった感じの女の子の無邪気な元気さと、愛嬌ある黒犬の可愛さが重苦しさの中の救い・希望をもたらしてくれた。
とはいっても、とうとう子供が現実の重さに打ちひしがれ泣き苦しむ場面でのエンドには、こちらもいかんともしがたい沈痛さに浸らされることになる。

エンタメではない芸術映画として地味ながら強い余韻が長く持続。本当に久しぶりに悲劇によるカタルシスさえもたらされたと言っても言い過ぎにはならない。
あの殺風景なロケ地、建物、不思議な不協和音的音楽も実に効果的だった。

4.6の五つ星

この雰囲気は軍事政権の経験がある韓国でも出せそうな気はするが、現代日本ではたとえ幼女の頃の芦田愛菜を起用したとしてもおそらく無理だろう。
国家権力による真の抑圧経験者のみが醸し出せる味わいなのかもしれない。

002012
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