LUXH

プライズ〜秘密と嘘がくれたもの〜のLUXHのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

普段ならジャケと邦題では観たい感じにならないやつ。逆にこれで観たくなった方、心がほっこりするような軽くてハッピーになれる作品を望む人には合わないかも、しれない。主人公は非常に自然体に映っている。天才子役過ぎて…。7歳はもう少し大人のような気もすると思いつつ、アルゼンチンのクラスメイトもはにかんだり落ち着きがなくて、まだまだ子供らしい子供。環境は同じではないがあるある風景、だからこその危機感を後半感じ取れるはず。

無感情に繰り返す海辺の波をバックに、秋から冬へと移り変わる頃の寒々しい乾いた空気感。淡々と流れる映画、過度なドキュメンタリよりももっとリアルを映しこむような、彩度を抑えて虚飾を感じさせない作品。(あくまで個人的なイメージ)かなり繊細な描写の連続性に感化される人、親や大人とうまくいかなかった人等は共鳴するかもしれない。

舞台の背景は活動家や学生、ジャーナリストが弾圧を受けて何万人もが拷問や死刑にあったとされた時代だという。父や従兄弟は反国家的として存在を亡きものにされる。教育と軍事に力を入れており愛国心を煽っていた。本作は監督の半自叙伝的な作品だという。

海辺のボロ小屋に身を潜めて娘と暮らすようになった母親は常にピリピリした空気感を漂わせているが表面的には感情を押し殺して子供と接している。毅然として明日も判らぬ身で生きているにしては、芯の強い女性という印象だが極めて社会と閉鎖的に生きている様はいつ崩壊してしまうやもしれぬ危うげな感覚をこちらに感じさせる。淡々としていて執着心の薄い様に思える彼女が唯一繰り返している行為、電波のほとんど拾えないラジオに聞き入る姿が印象的だ。一筋の光にすがり情勢が変わるのを待ちわびているかにも思える。

娘は7歳。ただただ1日をやり過ごす母をよそに、無邪気に1人で遊んでいる。あまり構ってもらえなくても、会話のキャッチボールが無くても、平気な感じだ。母の決意で学校に通わせてもらえるようになる。パパとは離れ離れという事しか知らない。「聞かれたら、パパはカーテン売り、ママは主婦と答えなさい」という母のいいつけをおままごとのように守るが、理由は知らない。上手に答えられることが彼女にとっての「良い行い」になっていく。読み書きは、クラスの中でも得意である。

仲の良い子も出来るが、本当のことを言わなかったり答えられない、知ってる振りをしている事を見透かされてしまい、距離ができる。どうして仲良くしてくれないの?私のこと嫌いになったの?という彼女の珍しく直球な言葉が、刺さる。この溝から、純真無垢に笑っていた主人公が明らかに不満そうに不安定になっていく。母が返事をしてくれないことにも、声を張り上げて何度も尋ねたりするようになるが、いつものように母からの返事は返ってこない。

軍と小学校が提携して、作文や国旗の挿絵への参加を呼びかける。この頃従兄弟が軍に殺された事を知るが、母からそれを伏せる様、真逆の事を書きなさい、適当に軍を讃えなさいと血相を変え促される。その作文が称えられ、優秀賞を獲得し、表彰されることになった。母は娘が読み書きに長けていることは望んでいたが夫を奪った軍から賞を貰うなど願いさげであった。虚構の文章が評価されるという馬鹿馬鹿しさや身の危険を案じたという点もあるだろう。娘は、無邪気だが決して出しゃばりな子ではない。が、頑として授賞式に出る事を望んだ。恐らく、見栄などではなく、ただ自己の存在の証明、母や他人に認めてもらいたかったのだと思う。

ものをガシャガシャ延々と音を立てて揺らしたり、ガラスを一箇所に投げ続けたり、無言のストレス信号を出し始める。母もたまらず声を荒げる。が、ほとんどそれきり。日常的になるが言葉も介さず物音で制止させようという位だ。程なくしてたまりかねた母は父が軍にどの様な扱いを受けたか告知する。娘はぐしゃぐしゃになりながらリハーサルをする。ワンサイズ小さな靴に足の痛みを感じるだけの空っぽな心で授賞式に臨んだ。

授賞式から帰り、母と言葉では和解したものの突然、幼児退行さながら、ぐずりながら母にしがみついたり服を引っ張ったり、外に連れ出そうとしたりする。それに対して母はいつも通り、目も合わさずあしらうだけだ。私には母親の張り詰めていた感情が何であれ終わってしまった事として彼女自身、解かれた様にも感じたが、一方娘の視点では母に完全に見放されてしまう焦燥と不安感でいっぱいになっている様に感じた。もしくは、父が殺されてしまっていないという現実に押し寄せてきた情緒不安も相まっている可能性も考えられる。

最後に砂嵐の巻き起る中、表情は見せず1人海に向けて膝を抱え佇み、(多分)後撮りの泣き声と重ね合わされる映像で終わる。このシーンは、心の声、の演出だったんじゃないかなとも思う。監督は、女性らしい。思うのは、社会と親子の疎外感と、相反する密接感。男の子や男の人の登場は皆無ではないが、敵意は感じられない。小学校訪問を任された軍曹も、悪い人じゃない。言葉は少ないが端々からむしろ先生よりも子供への愛を感じる。兄弟や子供の事と重ねたのだろうか。だが一方で、教師や母親など女性の大人、また隊長など権威ある人々達が持ち与える固定概念や、大人の都合による排他的な姿勢を子供達は目の当たりにしていることが強調されている作品だと思った。
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