はづき

きっと、うまくいくのはづきのレビュー・感想・評価

きっと、うまくいく(2009年製作の映画)
4.5
初インド映画!!
『Aal Izz Well』は非常に頭に残りました笑
曲中の映像は、テンポよく場面が切り替わるので、耳だけではなく目でも楽しめました。3時間近くあるとは思えないほど、中身の濃い物語でした。

以下は、提出したレポート〜!

この作品の全体を通したテーマは、「現代の競争社会、良い企業に進むこと・安定した職に進むことが良い人生をおくる最上の方法である」へのアンチテーゼである。

インドの立身出世のための職業は、「エンジニア」と「医者」なのだろう。カースト制度が未だ根付いていると言われている国では尚更、職業がその後の人生を決める。
登場人物は、生まれた瞬間に親にエンジニアや医者になることを求められる。有名大学に進学した彼らは、家族からの過大な期待にさらされ、時には本当に興味のある職を諦め、勉学に励む。

誰よりも先んじないと気が済まないこの大学の学長の口癖は「人生は競争だ、1番でなければ意味がない」。まさに競争社会の勝利者たる人物だ。
ラジュールとジョイロボットは、現代社会(インド映画なので、おそらく現代インド社会)を生きる学生を象徴している。どちらも家族の期待の星であり、彼らの成功(大学を卒業し、エンジニアになること)が家の命運を握っているという点で共通している。また過大なプレッシャーに晒されている2人は卒業出来ない危機に晒されると、絶望し、自殺を図ってしまったという意味でも同様だ。
ランチョーが学長に「インドの自殺率は世界NO.1だ」と訴えるシーンがあることもこのアイディアの裏付けになる。

そんな中、学長の考えとは全く違う意見を持つ学生(ランチョー)が入学する。彼は、成功を追い求めるのではなく優秀さを追い求めるべきだ、大学には成功のためではなく学問のために行くべきだと考えていた。
彼は、「学問を学び新たな発明を生むために進むはずの大学がより良い就職のために点数の稼ぎ方を教える場所になっていること」「学問の探求ではなく単位のために形だけ勉強する。たとえ不本意でも就職のためには、自分自身を会社に合わせることを選ぶ機械のような学生」を量産していることを批判する。

ランチョーと対照的な人物がチャトルだ。ランチョーに言わせると「機械」である人物だ。
彼は、学長の「競争社会」の考え方に賛同しており、より良い企業に就職するために大学に入学した。教師の日に代表スピーチを任されていることや、成績が2番だったことからも彼の優等生ぶりがうかがえる。
授業で「機械」の定義を聞かれた時、易しい言葉でシンプルに話すランチョーと、教科書通りの定義をスラスラと喋るチャトル というように2人は対比されている。

ランチョーの主張はとても正論だ。しかし、実行するのはとても難しい。なぜなら、現状の貧しさや将来の不安から逆転が狙える職業や安定した職を狙いたい、そのための近道として(良い)大学卒業という肩書きをゲットするという考え方は社会に広く浸透しているからだ。

実際日本の大学生の多くは、学問のためというよりも将来の就職のために入学し、興味がある授業よりも、楽に単位が取れる授業を狙い、テスト前日には必死に知識を詰め込む。仕事は公務員、もしくは大企業、安パイを狙う。
このような周りの空気に流されてしまうこともある。

また、学生側だけではなく、親からも安定した職業に就くことを求められる。子どもに苦労をして欲しくないという親心からだ。

親から安定した就職を求められ、就職のために通う劇中の大学生たちの姿は、遠い国の大学生たちの姿ではない。私たちの姿だ。
現在ファルハーン、ラジュール、ランチョーの3人は、「競争社会」の中で「安定した堅い職」のために生きてはいない。各々の人生の中で大事なもののために生きている。10年後出会う彼らはとても幸せそうだ。彼らは、序盤に示された「成功」とは別の形で成功を掴み、より良い人生を歩んでいるのだ。
はづき

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