きぬきぬ

男として死ぬのきぬきぬのレビュー・感想・評価

男として死ぬ(2009年製作の映画)
4.2
生と死の狭間にあるファンタジーと言えるかも。冒頭の場面から、生と死は対をなし、近づいていたのかもしれない。とてもロマンチシズム溢れる物語でもある。
親子ほど歳の離れたドラッグ依存の恋人を持つドラッグクィーンの愛は自身の実の息子の為の断罪にも思えるし、その長い迷い道を歩いていたドラッグクィーンのトニアと恋人のロザリオとは実の親子以上に共依存の関係のように見える。
本当にドラッグクィーンのトニアが女性としてのアイデンティティを生きたいと思ったとしても、神に授かった性でないと天国には昇れないと思っている信仰心に邪魔されているのだ。すでに彼女/彼には自身のアイデンティティを偽って生まれた息子もいる。
トニアの性転換にも踏み切れない苦しみを、若くともドラッグ中毒のどうしようもない恋人であってもロザリオも苦しんでいたのだろうな。しかしトニアの身体の変身(性転換してないが乳房はある)に災いが下ったとき、若い恋人の愛が皮肉にも強まりを見せるのだ。
とても奇妙で不思議な場面でもあるのだけど、忘れな草、思い出を掘り起こす二人の穏やかで幸せそうなこと。
トニアは信仰心が強いから、自身の性にも悲しいかな罪を抱えている意識も強かったのだろう。そんなトニアが「男として死ぬ」ことを選んだことが、トニアの性のアイデンティティの不安定さに、自身も混乱していたロザリオにとっても迷いのない愛への道となることが、悲しいけれど本当にロマンチックでもあるのだな。
ラストの展開には、作品のテーマ的な変容と、信仰により抱えるアイデンティティの苦悩とは別なところで、ドミニク・フェルナンデスの小説「除け者の栄光」の愛の殉教を思い起こした。感傷的な歌も悲劇を彩るけれど愛は迷いなく成就する。
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