Mikiyoshi1986

愛のコリーダのMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

愛のコリーダ(1976年製作の映画)
4.1
ちょうど80年前の今日(昭和11年5月18日)、東京のとある旅館の一室で局部を切り落とされた男の遺体が発見されました。
その2日後、男の局部を所持し逃走していた犯人の女・阿部定が逮捕。
後の取り調べで死因は情事の果ての○○プレイだったことが明らかになります。
これが日本中を震撼させた世に云う阿部定事件であり、以後多くの人々から同情と共感の声が寄せられ、5年の刑期を終えて出所することに。

この事件を巨匠・大島渚が映画化し、その作風が国内のみならず世界に再びセンセーションを巻き起こす事件になるとは、一体何の因果でしょうか。
そして奇しくも5月18日は阿部定役を演じた松田暎子の誕生日でもあるのです。

日本初の本番SEX映画として「芸術か猥褻か」で大問題に発展した本作は、いかに大島渚がアナーキーな監督であったかを物語る作品と云えます。

私が初めて本作を観たのは「愛のコリーダ2000版」で、極限までボカシを抑えた修正ではあったものの、やはりそこには映像規制の限界がありました。
現在はドイツ版Blu-rayを所有しており、高画質やリージョンコードの緩和に加えて無修正&完全ノーカットという大島が望んだ真の姿を拝見できることに感動を覚えます。
本当にいい時代になりました。

本作には大島の徹底した美学が随所に見受けられます。
構図、アングル、人と物の配置、テンポ、台詞、音楽、座鏡台の演出など、まったくもって抜かりがありません。

そして日本式のアイコンが散りばめられているのも確信的です。

まず季節を示すアイコン。
しんしんと降る雪、白梅の枝、餅花、五月雨、鯉のぼり等。
日本文化を示すアイコン。
人力車、芸者、端唄三味線、番傘等。
そして日本の神仏的なアイコン。
菩薩像、神輿、婚礼の義、鳥居、祠、神酒、奉納と刻まれた手水鉢等。

各場面で挿入される女性たちの視線は大変画期的であり、二人の愛慾にまみれた幽玄世界を際立たせています。
その奇異な眼差しには軽蔑、羨望、好奇、嫉妬が入り乱れ、彼女達の視線が二人と世間との隔絶を象徴しているのです。

藤竜也のニシシッと笑う粋な江戸っ子風情もカッコいいし、あの色気と包容力は「実録 阿部定」の吉蔵よりも傑出していて魅力的。

私はここに猥褻というフィルターを通して抽出されるピュアな愛のかたちを見つけます。
神の御前で快楽を貪り合うアダムとイヴの如く、心身の繋がりを神格化させた焦点。
直向きに惚れ合うとは、本当に愛するとはどういうことか。
吉蔵の献身と定の凶行には切なくも美しい、究極の愛を感じずにはいられません。
Mikiyoshi1986

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